翔との、出逢い。
柴崎 翔・・・。彼と初めて逢ったのは、1年前の若葉がまぶしい季節だった。朝倉 凛は、他店舗から、駅ビルに入った本店に、移動になり、開店前の、顔合わせで初めて、翔と、会話を交わした。
「始めまして。柴崎です。」
翔は、ネームを差し出しながら、無愛想に挨拶した。一緒に並んだ男性達は、半分照れ笑いを、浮かべながら、挨拶するのに、翔だけは、思いっきり、感じが、悪かった。
「彼女が、同じフロアーに居るからね。」
怪訝な顔をする凛に、先輩の沙耶が、耳打ちした。
「なかなか、焼きもちやきだから。気をつけてね。」
もう、一人の、同僚。京香も、そう言って、笑った。
「話してただけで、何、話してたか、聞きまわるんだから。」
「そうなんですか?」
・・・だから、無愛想なの?笑ったら、素敵なのに・・・。
凛は、改めて、翔を、上から下まで、みてしまった。背は、高いのだが、思いの他、脚は、長くなかった。制服である黒のベストとグレイのパンツがよく似合った。顔は、どちらかというと、甘い顔だが、顔は、本当に無表情で、つまらなさそうに、仕事をしていた。
・・・ヒップは、まあまあかな。・・・
凛は、そっと、翔の、ちいさなお尻を、みやった。
・・・って、こんな事すると、セクハラで訴えられちゃう・・・
思わず、凛が、クスッと、笑うと、自分の事を、笑われたと感じたのか、翔が、ムッとした顔で振り返った。
「すいません。」
思わず、凛は、謝った。
「じゃあ・・・。朝倉君は、柴崎君について、商品のチェックでもしてもらおうかな。」
「はぁ・・。」
店長の、三宅に、指示され、凛は、翔と一緒に、仕事をする事になった。
「よろしくお願いします。」
面倒くさそうに、翔は、こちらを見ると、軽く、会釈をした。遠くから、先ほどの、京香と沙耶たちが、見ていた。
「俺が、リスト読み上げるから、箱の中身を、合せてくれますか?」
真面目な顔で、翔が言った。
「ここにあるの、全部ですか?」
バックヤードには、天井まで、箱が積まれていた。
「セール前だからね。とにかく、ささっと、終わらせましょう」
「ですね・・。」
残業になるんだろうか・・・。凛は、優奈の、保育園のお迎えが心配になった。
「遅くなるんですか・」
「あぁ・・・。朝倉さん。お子さんいるんでしたっけ?」
事前に、凛の家庭状況は、噂で流れているらしく、年齢まで、しっかり知られていた。
「みんな、いろいろ知ってるんですね?」
「あぁ・・・。噂好きだから・・・。子供いるんだから、時間きたら、帰って、大丈夫ですよ。後は、俺がやっておきますから」
翔は、リストを、仰ぎながら、言った。
「えっ・・・。柴崎さんでしたっけ?大丈夫なんですか?」
「何が?」
「あの・・・。デートとか・・・。」
「あぁ・・・。毎日しなくても、いいでしょう。」
デートに、関して、否定はしなかった。
「いるんですか?」
「何が?」
翔は、とぼけた。
「仕事しましょう。」
「はい」
凛は、翔と、仕事にとりかかる事にした。時折、2人の様子を伺う女性の、目線を、背中に感じながら、凛は、翔と、時間が、過ぎるのを待っていった。