あなたへの、問題。
高速は、真っ青な空の中を進んでいるようだった。雲ひとつない、大空が、広がっている。翔は、男性ボーカリストの歌が好きであまり、洋楽は、聴かなかったが、歌にあわせて、運転しながら、おどけてみたり、凛を退屈させないように、気遣いを見せていた。
「歌好きなの?」
「好き。ってか、踊るのが、好き」
ハンドルから、両手を離し、おどけた。
「またぁ!危ない!」
「大丈夫。歌も好きだけど。フットサルも好き。」
「へぇ・・。選手なの?」
「下手だよ。いつまで、たっても、上手くならない。でも、今度、見にくる?」
「そうね。」
凛は、翔の熱い目に、気付かないで、簡単に答えた。優奈も、ボール遊びが、好きだから、フットサルを、見に一緒に行っても、楽しいだろう。
「見に行きたい」
微笑みながら、応えた。高速は、T県にはいり、Sインターチェンジ付近から、渋滞が始まっていた。時折、流れは、するが、進んだり、止まったりの繰り返しで、車中の2人きりでいる無言の時間が、流れ始めていた。
「あのさ・・・。」
会話が、続くと、何でもないが、無言の時間があると、妙に意識してしまう。
「クイズしていい?」
翔が聞いた。
「いいけど」
「街に、1人の、女性がいました。女性には、夫がおりましたが、戦争に出て帰ってきません。連絡もありませんでした。女性には、思いを寄せてる男性が、おりました。ある時、牧師が、言いました。
「「夫は、戦死したのだから、その男性と再婚しなさい」」と。女性は、夫の死を悲しみました。男性は、女性に、結婚を、申し込み、再婚しました。何年かして、夫が、帰って来ました。軍の、命令で、離島にいて、妻には、連絡できなかったそうです。」
意味ありげな質問を、翔は、凛になげかけた。
「誰が悪いと思う?」
「誰が?あたしは、誰が悪いなんて、考えられないな・・・。戦争のある時代かな」
翔は、笑った。
「君は、連絡のない夫を待ってられる?」
「連絡のない夫?」
凛の心の中に、小波がたった。見知らぬ女性の脇にいた夫・悦史の横顔を、思い出し、思わず
「待てない」
応えてしまった。待ってましたと、ばかりに、翔が言った。
「女の人は、そう答えるんだよ。連絡をしない夫が、悪いって。でも、夫は、連絡したくても、できなかったんだよ」
今。自分と、一緒にいる凛を、責めているようにも、聞えた。
「じゃあ・・・。夫のいない間に、言い寄ってきた男?」
凛は、翔を見た。
「そう、思う?」
渋滞している車の中で、翔は、凛の顔を、見据えた。真剣な眼差しだった。凛も、目線を、はずす事なく、翔の顔を、見つめた。片方だけが、二重の、長い睫に、囲まれた黒目がちの、瞳。情熱的でも、あり、どこか、投げやりでもあるその魂を、秘めたその瞳は、凛に、挑戦的にも、受け取れた。
「ねぇ・・。」
翔は、甘えた口調になった。
「夜メールしてくるでしょ?」
最近、頻繁に翔とメールする回数が、増えていた。返信すると、またすぐ、メールは、続き、終ることは、ない。いつか、途中で、寝てしまう事があったので、眠くなる時は、必ず、
・・・おやすみなさい・・・
を、いれないと眠れなかった。
「何時に、眠るかって?」
凛は、意地悪っぽく、応えた。よく、眠るのが、早すぎると、笑われる。
「じゃなくて・・・。」
翔は、言葉に詰まった。
「俺とのメール・・・。旦那さんとの、同じベッドからしてるのかな?・・・と、思って」
泣きそうな顔になっていた。
「そんな・・。」
凛は、思わず、赤面した。
「む・・・。娘と、一緒だから・・・。なんで」
どうして、そんな事を聞くんだろう・・・。そんな哀しい顔をして・・。そして、自分は、何をあせっているんだろう。
「そ・・・そうか。」
翔は、少しだけ、安心した顔をしたが、なんとなく、気まずい空気が、流れ始めた頃、ようやく、車が、動き出した。
「前にさ・・・。」
気まずい空気を、隠すように、翔が言った。
「見たいって、言ったよね。」
高速を降りると、看板があった。
「フラワーパーク・・・。大藤が、あるんだ」
翔は、凛の言った小さな事も、覚えていた。凛の好きな花が、あふれる公園に向けて、翔の、車は、進んで行った。