41 誘拐
プノンに最近越してきた若い黒髪の男。
まだ少年のようだが。
俺はこっそりと後をつけていた。
「な、なにい?」
大きな屋敷に入って行ったではないか。
長年あそこは人が住んでいないと言われていたところだった。
不思議な屋敷。
誰も居ないのに時々掃除をされているようで、キレイにされている。
色々な噂があり、貴族の所有物だの王家の物じゃないかとか言われていた。
「ここに住んでいるのか…」
黒髪の少年が金髪の女と二人で入っていくところを見届けた。
「あの女を攫えってことだよな?」
だが、どうやって?
普通に訪ねていくのも怪しすぎると思うのだが。
出かけているところを襲うとか?
しばらく屋敷の壁の前で考え込んでいると。
『どちら様ですか?』
「「ひえっ!」」
思わず叫んでしまった。
中に入っていったはずなのに、急に女が俺に話しかけてきたのだ。
いつの間に来たんだ。
「え…新しい人が越してきたと聞いたからどんな人なのかと思って…」
驚いて変な返しをしてしまった。
怪しまれないだろうか?
『そうなんですか?わたしを誘拐しに来たのではなくて?あら、貴方青い髪色ですね』
「そうだよ。俺はあんたを攫いに来たんだ。大人しくしろ!」
何でバレたんだ?
こうなりゃやけだ。
俺は女を羽交い絞めにした。
*
「あれ?コルネットが居ないな」
一緒に来たと思ったのに、いつの間にか姿を消していた。
「ソウタ様、このような手紙が届いております」
手紙?
特に封もしてなくて封筒に便箋が一枚入っていた。
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屋敷の主人へ
女は預かった
返してほしければ、夕刻までに町のはずれの小屋に金貨100枚を用意して持って来い
女の命が惜しければ言うとおりにしろ
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「誘拐?」
走り書きの文字が書かれていた。
どうやらコルネットが誘拐されたらしい。
どういう事だろう?
彼女なら簡単に逃げられると思うんだけど…。
*
「ナダル、お前にしちゃ良くやったじゃねえか。金もそうだが…この女やばいな。どうしても手に入れたくなった」
女は騒がずに大人しくしている。
よく見るとかなりの美人だった。
俺に彼女が居なければ惚れていたかもしれない。
「捕まえて悪かったな…これやるから何とか我慢していてくれ」
俺は彼女にあげようと用意していた高価なお菓子を女性にあげた。
洋酒が入っていて大人な味らしい。
『お菓子くれるの?』
俺は女の手が縛られていているので掴めないだろうと縄を外した。
女はお菓子が好きなんだな。
喜んで食べている。
しばらくすると女の意識が無くなってしまった。
「え?これ毒は入ってないはずだが…大丈夫か!」
*
町のはずれの小屋。
誰も使っていないらしく埃っぽかった。
ドアを開けて入ると、茶髪の男、青い髪の男、コルネットの金髪が見えた。
「言われた通り、金貨100枚持ってきたんだろうなぁ?」
そんな大金は無かったのだが、執事さんがいざという時の為にアルトから預かっていたお金を出してくれた。
アルトには感謝しかない。
最初から、金貨を渡すつもりも無いけれど。
コルネットは気を失って横になっているようだ。
「え?お前たち彼女に何をした…」
僕は言いようのない怒りが込み上げてきていた。
全身が熱くなってくる。
ボッ!ボッ!ボボボッ!
「「火魔法だ!室内は燃えやすいっていうのに何て奴だ!逃げろ!!」」
茶髪の男が叫びだした。
何言ってるんだ?
確かに暑いけど魔法…使っていないのに。
「あれ?」
見ると小屋の中が一面…火の海になっていた。
僕が無意識に魔法を使っていたらしい。
ドンドン!
「え?外に出られないどうなってんだ?」
僕は最初から結界を張っていた。
勿論コルネットを攫った連中を逃がさないためだ。
茶髪の男は一人で逃げ出そうとしてドアを必死に叩いている。
青い髪の男はコルネットの近くに居て、眠っている彼女を起こそうとしているみたいだ。
「火を消さないと、彼女も死んじまうぞ?…ゴホゴホ」
青い髪の男が必死の形相で僕に語り掛けてくる。
この位の火では、僕とコルネットは死ぬことは無い。
二人の男は死ぬだろうけど。
『ん~暑い…え?何これ?ええええっ?』
コルネットが慌てて、魔法を放った。
「『豪雨』」
バシャッ!
水が頭上からたたきつけられる。
『『ソウタ!冷静になりなさい!』』
彼女の魔法で、大量の雨が降り火は瞬く間に消えていった。
「あ…あれ一体…僕は何を…」
水を浴びたことにより、僕の怒りの感情も鎮火していった。




