うっかりしてた!
「ごちそうさまでしタ。見知らぬ初見……しかも宇宙人である我々をモ、受け入れてもてなしてくださリ、ありがとうございまス、菊池」
「ゼーリ真面目すぎー」
菊池はぺこりと震えるゼーリを、ちょんちょん突っついている。
ぷるんぷるん揺らぎが発生して、ちょっと楽しい。
うふとえっぐとプリンも同じように思っているのか、プルプルなゼーリを見て口角がかなり上がっている。
「ってか、菊池は順応性高すぎるね」
ド宇宙人なビジュアルのプリンですら、全く気にせず、今まで一緒にいたかのような友達みたいに、会話をする菊池。
「大半の人に見えない妖精さんが見えるし、宇宙人肯定派だし?」
「私らを、研究機関に突き出せば、莫大なお金入るかもよー?」
プリンは、菊池がそんな事をする人ではないと踏んでの冗談混じりのセリフを言うが、菊池はキリッと顔を凛々しめに作り、ニヤリと笑う。
「それなら、ヨーチューブの『菊池のお掃除・お片づけちゃんねる』に出てもらうわ。再生数伸びそうだし」
カラカラ笑う菊池。
配信を理解しているプリンとゼーリはケタケタ笑う。
うふとえっぐは大きく体を傾けているので、菊池はタブレットを操作して、自分の動画配信を見せる。
「わあ、菊池が板の中にいる!」
「え、ここにいるのに?!」
うふは飛び上がって驚いたし、えっぐはタブレット画面と菊池を交互に見ている。
簡単にプリンが説明をしてあげたり、そのプリンのわかりやすい説明に、ゼーリと菊池は拍手を送ったり。
そして、窓からは茜色の光が差し込むようになり、すでに時間はかなり経っていた。
「菊池、メロンクリームソーダを教えてくれて、ありがとう。うふ、えっぐのおかげで知ることができたし、新しい友達もできた。本当にありがとうね」
プリンはにっこり笑ってお礼を言うと、菊池とうふとえっぐは照れくさそうに笑った。
「知らないものを知ることができたシ、友との再会、新たな友情が生まれたことをとても嬉しく思いまス。連れて来てくれたプリンさんも、菊池さんを紹介してくれたうふ・えっぐも、我々を受け入れてくれた菊池さんモ、全てにありがとうの気持ちでス」
ゼーリもぷるりと体を震わせて、深く頭を下げるように沈み込んだ。
「えっぐやうふと再会できたし、宇宙人……うーん、違うな。別の星の友達ができた! 素敵な再会と出会いにみんなありがとう!」
菊池も笑顔でお礼を言う。
ありがとうの気持ちが溢れに溢れている。うふとえっぐはにっこり笑って、頷いた。
「うふも、みんなとまた会えて嬉しいし、楽しい時間をありがとう!」
「えっぐも! プリンとゼーリ、菊池が元気そうだし、お友達同士になったし、嬉しい! ありがとう!」
これで、プリンとゼーリが知らなかった『メロンクリームソーダ』を知るお手伝いが終わったのだ。
うふとえっぐは頷いて手を繋ぐ。
「「お手伝い終わったから、帰るねー!」」
そして、光の中にふたりの妖精は消えていった。
「ハハっ、またこのパターン! もうちょっと惜しんでくれてもいいんじゃないかなー!?」
菊池が何もない空間に向かってツッコミを入れるものの、もう会えないと思っていたし、きっと10年も経てば見えなくなってしまったのだと、自分に言い聞かせていた。
が、再会できたので喜び感動したものだが、また同じような、しかも今度は1日経たずにお別れだ。
しかし、菊池の顔に悲しいものは浮かんでいなかった。
離れていても、友達である。そう己に言い聞かせて頷いていた。
「あ、あノ……」
ゼーリがプリンにオドオドしながら声をかける。
「宇宙船、えっぐの家に置いて来ましたよネ」
「あ……」
「え?」
菊池はここに来た経緯をさらに詳しく聞くと、プリンは大型の宇宙船を持っていて、えっぐの家を訪ねるのに小型宇宙船で向かって、お家の横にそれは置いてきたそうだ。
そして、えっぐのお家まで一緒に帰るものと思っていたが、お手伝いが終わったので帰る時間となった彼らは、そのまま帰ってしまった。
「……え、どーすんの?」
「私の移動用ポッドに、宇宙船を呼ぶ機能があるから大丈夫。どっちの船も呼んでしまうから」
「なら、帰れるんだね……よかった。ってか、うふとえっぐ、絶対に忘れているよね」
「おそらク……」
そして、プリンは自分のポッドを操作して、宇宙船を呼んだ。
「げ……」
なんだか、芳しくない声がプリンから響いた。
「どうした……」
菊池は恐る恐る訊ねると、プリンはプルプル震えながらポッドから出ているスクリーンを見せる。すると、ゼーリがブルブル震えた。
「なんト! 2週間掛かるのですカ!!」
「そこから、ゼーリの住む星までは2ヶ月掛かるね」
「休暇中なのデ、問題ないでス」
そのやりとりを聞いていた菊池が口を開いた。
「もう、2人とも船が来るまでうちに居候しなよ」
プリンがなんやかんやの技術を提供して、時間は掛かるがメールのやり取りをできるようになった菊池。
もちろん、地球の人には内緒だ。
菊池と宇宙人たちは2週間ほど楽しく過ごし、友情を深めたとかなんとか。
ここは妖精さんの住む島。
お手伝いを終えて、ありがとうの気持ちをたくさん受け取ったうふとえっぐ。
ニコニコして手を繋ぎながら歩いていると、えっぐがピタリと止まった。
「あ……えっぐのお家の横に、プリンの筒置きっぱなしだ」
「あ、そういえば……」
宇宙船を停めていたことを思い出した。
慌てて家に走って帰り、家の横をペタペタ触るように手を当てても、何もない。
「「あれ?」」
光学迷彩で見えなくした宇宙船だが、見えなくしただけで触るとそこにあった。
が、無くなっている。
「筒がないと、お家に帰れないよね、困ってるよね」
うふがあわあわしながら、えっぐに訊ねると、えっぐも焦りながらブンブン体を倒している。おそらく激しく頷いている。
慌てて島の真ん中の湖へ行き、プリンとゼーリが困っているので、助けなきゃ! と思って飛び込むも、島に返されてしまう。
「「あれれ?」」
湖は困っている人を助けるため、その場所へ向かうはずだ。
「ってことは、プリンたち困ってないってこと?」
うふは耳を左にカクンと倒した。首を傾げる動作の亜種だろう。
「ってことになるよ……ね」
えっぐも耳を右に倒して頷いた。
困っていないので、辿り着けないから、そう結論づけるしかなかったのだ。
「お家に帰って、ごめんねのお手紙出そうか」
パタパタ手を振るえっぐに、うふは大きく頷いて、えっぐの家に急いで帰る。
「うん、そうしよう!」
えっぐの家でお手紙を送り、ごめんねをたくさん込めた。
湖に飛び込んで、島に帰ってくると、妖精さんはとても眠くなってしまう。そのため、ごめんねのほかに、おやすみも伝えておいた。
目が覚めた時には、大丈夫だから心配しないでと言う音声お手紙が届いて、うふとえっぐは大きな安堵の息を吐いた。
それから、妖精さんと宇宙人と、たったひとりの地球人との交流は、ながくながく続いたそうだ。