メロンクリームソーダとご対面!
「……で、その。ふたりと、もうふたり……? みんなはどうして?」
本題に入る菊池。問いながらも、冷蔵庫から麦茶を出して紙コップに注ぎ、テーブルに並べ、みんなで小さなテーブルを囲み座る。
そして、うふとえっぐの友達であるプリンとゼーリを紹介して、今回のことを説明する。
「――宇宙人と友達って、スケールでかい……」
妖精さんが見えるのもあって、菊池の理解は早かった。
プリンは自分の持つタブレット端末を、菊池に見せる。
「言語が違うので、読めないかもしれないけど……メロンクリームソーダって打って、検索ボタンを押すと……」
プリンの操作を菊池は頷きながら見る。
「画面、真っ白……」
検索結果に何ひとつ出て来ずだ。
検索結果は0件です、みたいな文字っぽいものすら無い。
「ちなみに、メロンクリームソーダは」
菊池は自分のタブレットをテーブルに置いて、みんなが見えるようにした状態から、慣れた手つきで画面をタップして検索する。
検索結果は、真っ先に画像が出てきて、緑色の鮮やかな色。それがグラスに入ったモノや、緑色のパッケージのジュースが出てくる。
「あ、うふたちが飲んだのこんな感じのやつー」
グラスに入ったメロンクリームソーダの写真を指し示すうふ。
「でも、こんなふうに、クニャッとしたコップじゃなかったよ」
えっぐは記憶を頼りに言葉を落とす。
「あ、えっぐたちのはテイクアウトだから、プラ容器に入っていたんだよ。使い捨てのコップ」
「このメロンクリームソーダのコップはー?」
「お店に行って注文して、お店で飲むときはグラスに入っている事が多いの」
えっぐの疑問を解いてあげる菊池。
プリンとゼーリは固まって画面を凝視している。
「これガ……メロンクリームソーダなんですネ……」
「何でUnknownなんだろう……」
自分の故郷には無さそうなモノであるが、もっとどぎつい色をした飲み物だってあるので、検索結果が真っ白なことに納得がいかないゼーリとプリン。
「あ、それじゃあ、せっかく再会できたし、お友達も紹介してもらったしで、メロンクリームソーダ作るよ!」
菊池が手をパンと叩いてみんなに告げる。
「えっ!?」
プリンはビックリして声を上げてしまった。
ゼーリもアワアワと小刻みに揺れて、手をパタパタ振りながら、言葉を繋げる。
「ソ、そんナ! 検索結果を知る事が出来テ、じゅうぶんですシ、突然押しかけた宇宙人とカ、菊池さんにとってハ、不気味で仕方ないかと思いますのデ、我々は退散ヲ……!」
この星は、連合に加盟していない未開のエリアのはずだ。なので、自分たちの事は不審者というか、不気味な異様生物にしか映らないはずだから、とゼーリは慌てて声をあげた。
その言葉に菊池はパチパチと瞬きをして、首を傾げた。
「え、うふとえっぐの友達なんでしょ? ならいいじゃん」
「「みんな友達ー!!」」
菊池の言葉に、うふは続いて声を上げる。えっぐも小さなおててをパタパタ振って頷いている。
「そ、友達!」
「え、いいの?! 多分この星の人から見たら、ガチガチの宇宙人で不気味でしょ、私たち」
「いいんじゃない? 人間たちの中だって、誰ひとり同じ姿なんて中々いないし」
菊池の言葉に、ふわっと胸が軽くなるゼーリ。
「よーし、ちょっと買い物に行ってくる」
菊池はグッと拳を握った。うふとえっぐが欲しいなら、頑張って振るまおう。と気合を入れたが、えっぐが慌てて菊池にしがみつく。
「お外、熱い!! 焼けちゃう!」
地に降り立った際のあの熱さを思い出して、体を左右に振るえっぐ。おそらく首を振って阻止しようとしている。
「大丈夫、熱中症対策バッチリするから!」
そう言って菊池は冷凍庫からランドルト環のような輪っかを取り出して、えっぐに持たせた。
「わっ、ひんやり!」
「クールネックリングって言って、首につけるとこの辺りがひんやりして、暑さを抑えてくれるんだよ」
「すごーい」
えっぐが説明を受けていると、気になったうふとプリンとゼーリが、じーっとクールネックリングを見ていた。
菊池はみんなにも触らせた。
「ほんとだ、ひんやり輪っか!」
「ふむふむ、潜熱蓄熱材使用の素材かぁ」
「機器制御なしで暑さ対策とハ。冷やしておくだけデ、手軽に使えるのですネ」
うふは思ったままの感想で、プリンとゼーリは自身の持つタブレットでスキャンして解析。
温度調節を精密機器が行なう環境にいるので、アナログなアイテムが珍しく思えることを菊池に伝える。
「よし、それじゃチャチャッと行ってくる!」
「ア、お留守の間お宅にいるわけにはいきませんので、我々はお外に出てますネ」
菊池は準備をして、自転車の鍵を持つと、ゼーリが慌てて菊池に声をかける。
「え、いいよ。外暑いし」
「そんなわけにハ、だって本日知り合った者をご自宅に残して外出は不安でしょウ!?」
真面目なゼーリは、菊池に遠慮がちだった。
プリンはポンと手を叩いて、菊池にバングルを渡す。
「これは……?」
「私の移動用ポッドの光学迷彩機能を防ぐバングルです。みんなで菊池についていこう。私たちはポッドに乗っていれば、他の人間から視認されなくなり、一緒に行けるし、ポッドは温度管理機能があるので、外の暑さも平気だよ!」
「おぉー……宇宙の科学パワーすごいな……」
そして、みんなでお買い物だ。
菊池は妖精さん・宇宙人さんと話をするときは、スマートフォンを耳に当てて会話をし、周りはなんとも思わない状態にする。
100円ショップでグラスとスプーン、ストロー、アイスクリームディッシャーを買って、スーパーでかき氷のシロップ、炭酸水、缶詰のチェリー、そしてバニラアイスを買う。
氷は冷凍庫にあるので、問題ない。と、足りないものがないか確認する。
「ポッドのミニ格納庫は冷蔵装置あるから、アイス類はこっちで持つよ」
「わー、助かるー」
駐輪場で周りに人がいないことを確認したプリンは、菊池から荷物を預かり、ポッドの格納エリアを開いて、収納した。
「猛暑ってか酷暑だから、冷えてる収納たすかるー」
「クリームソーダをわざわざ作ってもらうんだから、できる範囲の協力は惜しまないよ」
プリンはキリッとキメ顔。菊池もサムズアップで答える。
そして帰宅すると、冷房の効いた部屋で麦茶を飲んで一休み。
「よし、やりますかー」
菊池はエプロンをつけて、シャキッと動く。
うふとえっぐが、お片付けを教えていた頃の、辿々しい動きではなく、キビキビ動く。
「「菊池ーお手伝いー」」
うふとえっぐは、菊池の成長をさらに喜びながら声をかける。
「えーと、それじゃあうふには、買ってきた食器類洗ってもらおうかな」
「はーい!」
「えっぐは……これ、取り分けてもらっていい?」
「わかった!」
菊池は冷蔵庫からイチゴのタルトを取り出して、紙のお皿と一緒にテーブルに置いた。
「えート……」
「プリンとゼーリはお客さんオブお客さんだから座ってて」
「「ハイ」」
そして、菊池はうふに洗ってもらった食器類を拭きあげて、グラスに氷とメロンシロップを入れる。
炭酸水を入れてかき混ぜ、浮いている氷の上に、ディッシャーで掬ったバニラアイスを乗せ、缶を開けて取り出した真っ赤なさくらんぼをてっぺんに乗せると、検索画面に出てきた画像のメロンクリームソーダが完成だ。
「こ、これが……」
「メロンクリームソーダなんですネ……!」
「再会と新たな出会い記念のクリームソーダとタルト、召し上がれっ!」
菊池はニコニコしながらみんなに声をかけると、ひとつ頷く面々。
「「「「いただきます」」」ス」
アイスを掬って食べるうふ。
混ざる前のメロンソーダを飲むえっぐと菊池。
「食べ方に決まりや順番はないみたい?」
プリンは恐る恐る訊ねると、菊池・うふ・えっぐは深く頷いた。
「バニラアイスが溶けると『メロンクリームソーダ』になるから、まずメロンソーダを飲むタイプと」
菊池は自分とえっぐのコップを指差し、次にうふのコップを指差した。
「バニラアイスが溶ける前に、アイスを堪能するタイプ」
「なるほド……」
「あとは、バニラアイスを全部最初から混ぜて、フルでメロンクリームソーダを堪能ってのもある。好きなように食べてみるといいよ!」
「はイ、ありがとうございまス」
ゼーリはまずアイスをひとくち。そして、まだクリームが侵食していないメロンソーダ部分を飲み、それを3回交互に繰り返し、残っていて溶けたアイスがメロンクリームソーダになったものを堪能する。
「じゃ、私は全混ぜしてみよう!」
好奇心旺盛なプリンは、誰もやっていない食べ方に挑戦だ。
それぞれの食べ方で、メロンクリームソーダを堪能した。