金銭感覚異常
余計なことにお金を使うことをやめられない、高価なものを何も考えずに購入してしまう、このように金銭感覚がおかしくなってしまうことを人々は「金銭感覚異常」と呼んだ。金銭感覚異常は医学的にも精神疾患の一つとして認められ、現在大きな社会問題となっている。この金銭感覚異常は急に大金を得ることで起こりやすくなると言われており、主な原因としてギャンブルやクレジットカードの所有などが挙げられる。現在ではクレジットカードが普及し、クレジットカードの保有率が年々増加傾向にあることを背景に、金銭感覚異常者の割合は急速に増加している。金銭感覚異常の問題は政府でも取り扱われているが、そもそも政治家の金銭感覚異常者の割合は非常に高く、金銭感覚異常への対策を現政府が行うことはあり得ないと言われている。
それと、もう一つ問題になっているのが、金銭感覚異常者を狙った詐欺活動である。金銭感覚異常者に不必要なものを高額で売り付けるというシンプルな内容だが、そこに不適切な契約が存在しないため、犯罪行為として起訴することができない。この詐欺は通称「金異詐欺」と呼ばれ、現在大きな広がりを見せている。三年前、〇〇病院から金銭感覚異常者約1000人の個人情報が流出し、その個人情報をもとに金銭感覚異常者に絵画を高額で売り付ける、という詐欺事件が起こった。絵画は美大出身の詐欺グループの一員が描いたものであり、これを数百万から高いものだと一億円で金銭感覚異常者に売りつけた。この絵画はほぼ完売となり、被害総額は三億円にも上ると言われている。この事件をきっかけに、金異詐欺が急速に認知されることとなった。
「おまえ金銭感覚異常なんじゃない?」
俺が友人からそう言われたのは、ボートレースで1レースに100万円を賭けて負けた時だった。自分の金銭感覚がおかしいことに気づいていなかった俺は、友人の言葉が冗談かと思い爆笑した。
「そんなわけないだろ」
俺はそう言って友人の言葉を一蹴したが、友人はまだ何か言いたげに俺の顔を見つめていた。
「じゃあ、ちょっと診てもらうよ。別に大丈夫だと思うけど」
俺は友人に微かな苛立ちを覚えつつも、仕方なくそう言った。その日は132万円負けた。
翌日、俺は近所の病院に出向いていた。それなりに大きな病院で、待ち時間も長い。俺は貧乏ゆすりをしながら、待合室で自分の名前が呼ばれるのを待っていた。やっと名前が呼ばれ、看護師に誘導されながら診察室に通された。そこで、五十代くらいに見える医者と二十分程度話して、俺は診察室を出た。この時も俺は自分が金銭感覚異常だとは思っていなかった。自分よりも金遣いが荒い者を何人も知っていたからだ。しかし、診断書には『金銭感覚異常』の文字が確かに印字されていた。
俺は診断書を家に持ち帰り、信じられない気持ちになりながら診断書をまじまじと見つめていた。金銭感覚異常はステージⅠ〜Ⅴの五段階に分かれている。俺はステージⅢと診断された。これは世間一般的に見ても、高い進行度である。俺はこのままではまずいと思い、これからどうするべきかを考えた。金銭感覚異常が治ることはほとんどない。ごくたまにカウンセリングなどを通して改善する者もいるが、確立された治療法はなく、治る可能性は非常に低い。しかし、金銭感覚異常でも問題なく生活している者は多くいる。いわゆる大金持ちである。底がつかない財産があれば、金銭感覚異常であっても良い生活を送ることはできる。俺は連絡帳からとある電話番号を探し出し、普段使いのものとは別の携帯電話から電話をかけた。
『〇〇か。どうした?』
電話口から気だるげな声が聞こえた。電話の相手は三年前ともに詐欺を行った仲間の一人だった。俺はその相手に金異詐欺を持ちかけた。三年前のメンバーを集め、もう一度金異詐欺を行えば、必ず莫大な金を稼ぐことができる。電話相手は静かに俺の話を聞いていた。そして、少し考えてからこう言った。
『それじゃあ準備資金に1000万、俺の口座に振り込んでもらっていいか。なに、必ず数億の利益が出る。それに比べたらはした金だろう』
俺はその言葉を聞き、すぐに1000万を指定された口座に振り込んだ。