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1 前世の記憶は突然に



ーーーー頭が痛い。



もはや頭痛が痛いレベルで痛い。

昨日そんなに深酒したかな、と私は記憶を掘り起こそうとするが、ズキズキと痛む目の奥がそれを邪魔する。


(変な夢を見たのは覚えているのよね••••流れ星が落ちてきて、えっらい美少年と、ライオンだか虎だか分からない、真っ白なモフモフの動物が出てきたなぁ)


そのワンセットを、どこか見たような気がするけど、思い出すよりも取り敢えず今はこの痛みをなんとかしたい。


ウンウン唸っていると、チャプンと額に冷たい物が触れる。

あ、これ気持ち良い。

誰だろう、気が利く物をありがとう。


「どういたしまして。私のような者にお礼をおっしゃられるよりも、早く元気なお姿を見せてください」


口に出してしまったかしら。返事があったわ。

柔らかい、女性の声は心配そうで、世話を掛けて申し訳無く思う。


(ーーーーんん!?)


あれ、私は独り暮らしのはず。

母エツコが来ていたとしても、こんな若い声じゃないし、更に言えばなんで敬語?

まるで主人に仕える使用人みたいじゃないか。


ムクムク頭をもたげる違和感に、恐る恐る瞼を上げればまだ二十代であろう美人さんがメイド服を着てこちらを伺っている。


(ーーーーアタタタタタ、アタマイタイ)


無理して目を開けたからだろう、痛みが襲う。美人メイドキターーーー!どころじゃなくイタイ。


「お嬢様!どうぞ、ご無理を為さらずに」


え、おじょうさま?っお嬢様って?

今、私に言ったの?この美人メイドさん。

酔った挙句にどこかのメイド喫茶で倒れたのかしら、私。

嫌だわ、ご迷惑をお掛けしてすみません。



「•••••ええ、ハンナ、ごめんなさい」


(ーーーーえ!?)


乾いた私の唇が勝手に動く。

子供特有の高い声に驚いていると、その声に触発されたのか、私の中で別の意識が混ざる。


(そうよ、彼女は乳母のハンナだわ)


母親を早くに亡くした私には、母親代わりの大切な人。

公爵家本邸の数居る使用人の中でも、ハンナの声が分からないなんて事、ある筈無いのに。

きっとこの体調の悪さの所為だ。


ーーーーああ、でも。


グルグルと目が回る気持ち悪さが二日酔いのようで、思考が纏まらない。


(二日酔いって、何?私はまだ、お酒は飲めないのに)


「今回は魔力酔いではなく、お風邪をめされた様ですので、今お薬をお持ち致します。苦くてもきちんと飲んで下さいね?」


魔力酔いとな?なんだかファンタジーな用語が出てきたけど、二日酔いではないと?


ーーーーアレ?


ああ、そうか。私は魔力量の増え方が、身体の成長よりも著しく早くて、よく寝込んでたんだっけ。

身体が大きくなるに連れて、自然と治るらしい。


(なんで私がそんな事知っているの?)


知らない筈は無いわ。この世界の常識だもの。


(日本にそんな常識あったかなぁ。しかも魔力って、どこのファンタジー設定なのよ)


ニホン?ーーーーにほんって、ああそうね、日本、ね。


「お嬢様、ティアレーゼ様。お苦しいでしょうがーーーー」


ガンガンする頭痛でよく聞き取れないけど、身体を起こされたようだ。


フワフワのクッションを背もたれにして、息を付く。

プーンと鼻をつく薬草独特の臭いに魂が旅立ち掛けるが、ハンナの手がそれを許さず、私の口元へ容赦なく近付ける。


(ーーーーうっ。キッツ、コレごっつキツイわ。絶対不味い奴だ)


「さぁ一気にいきますよ!途中で止めると吐いてしまいますから!」


なんでか気合いの入っているハンナにグイッと唇に差込まれ、流し込まれるドロっとしたナニカ。

口と鼻をハンナに抑えられ、薬っぽいナニカは食道を通り、胃に収まる。


(グっはーーーーッ)


クッソまっずいーーーー!!殺人級の不味さに、この臭い。吐き出さなかった事を褒め称えて欲しい。

違う意味で目を回すわ、コレ。


「さ、もう一杯いきますよーーーー!」


だから何故にそんなに気合い入れてるの、ハンナ。


「ランマル先生のお薬は、良く効きますからね。若様、ギルバート様もご心配されて、明日、グランツ公爵本邸まで戻ると連絡がありましたよ」


(今、ランマル先生って言ったの?ギルバートって、え、若様!?あれ、グランツ公爵邸、あれれ?)


聞き覚えのある名詞に、その薬っぽいナニカをもう一杯と、グビグビッとイッた瞬間、ハンナが言った『ランマル先生』と『ギルバート』が脳内で再生されたーーーー美麗なスチルで。



(これってゲーム『星の降る夜に~君との約束~』の!?)


その記憶を捕まえようとするけど、クソ不味い薬が意識を遠退かせる。


まって、ちょっとだけで良いから、待って欲しい。


記憶がかけ巡る。走馬灯と言うよりも、脱水機で回されてる感じだ。


日本で産まれ育ち、アラサー1歩手前のOL、不運続きのあの日、会社帰りのコンビニーーーー流れた血。


そして、ティアーーーーティアレーゼ•レイ•グランツ公爵令嬢として産まれ育った記憶。


垣間見た映像の記憶と、チカチカと点滅する危険信号。


ーーーーまさか。そんな事あるはずが無い。


嫌な予感がしきりに点滅している。

こういう物語ってあったよねって頭の片隅で私が囁く。

というか、夢であって欲しい。

そんな馬鹿な話は小説の中だけでいいのだ。

二日酔いが見せる夢だよね。

でもこのクソ不味い味と臭さは、夢レベルを超えている。


リアルな夢なら、きっと目が冷めたら自宅のワンルームでーーーー。


私の意識は、ここでプッツンと切れた。





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