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怪盗ヴェールは同級生の美少年探偵の追跡を惑わす  作者: 八木愛里
第二章 学園編

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29 さびれた画廊で

 グラバー園を出た私たちは、自由行動の次の目的地を目指してレンガで舗装された道を歩く。

 

 ……ん?

 

 しばらく歩くと、道沿いの店舗の一つに違和感を感じて立ち止まった。

 黒い靄が立ち上っているだ。……これは。

 嫌な予感がする。怪盗ヴェールのターゲットの絵に現れる靄と同じタイプのものだ。

 

「私、この店に寄っていきたい! すぐに戻るから、みんなは先を歩いていて」

 

 と、私は店に向かって駆け出す。

 

「おい、秋山!」

 

 健太が呼び止める声が聞こえたが、私は構わず店に入った。


 さびれた画廊だった。私は絵が飾られているフロアを歩き回って、絵の確認をする。その中の一つの絵が黒い靄に包まれていた。間違いない、ターゲットの絵だ。

 

「秋山、勝手に一人で行動するなよ!」

 

 振り向くと健太が立っていた。他のみんなの姿はまだ見えない。

 

「この絵……」

 

 健太は私の前にある絵をまじまじと見つめる。

 

「峡雨の絵だ。……怪盗ヴェールが狙っている絵で間違いない」

 

 鋭い目つきで健太はそう言った。鑑定士さながらの目利きだ。

 私が最初に見つけたのに横取りされるの? それは嫌よ! ターゲットが近くにあるのに手をこまねいて見る羽目になるとは……!

 

「秋山、どうしてここにきたんだ?」

 

 健太が私に問いかける。


「それは……」

 

 私は言いよどむ。黒い靄が見えたから……とは絶対に言えない!

 

「もしかして、絵の収集家だったとか? それで絵が気になって見にきたとか」


「…そうだよ! 絵には目がないの! 自分の部屋に飾りたいな……って」

 

 私は苦し紛れに答えた。

 

「なるほど……秋山の意外な一面を見た気がするよ。俺も絵を見る目はある方だけど、ここまでとはね」

「ありがとう!」


 私は笑顔で取り繕った。

 

「峡雨の絵は俺に譲ってくれないか? 怪盗ヴェールを呼び寄せる切り札にしたいんだ」

 

 健太は真剣な表情で私を見つめた。

 ああ、本当は譲りたくない! だけど、断ったら怪しまれてしまうに決まっている。

 私には健太の言葉を呑むしか選択肢はなかった。

 

「分かった……いいよ」と私は頷く。

「本当か! ありがとう!」

 

 健太は嬉しそうに言った。


「秋山のおかげで良い買い物ができたよ」

 

 健太はホクホク笑顔で感謝の言葉を述べる。

 

「どういたしまして……」

 

 私は引きつった笑顔で返答した。


 ターゲットの絵は健太に奪われてしまったけれど、もう一つの可能性に賭けて、こっそりとメールを打った。

 私の父親宛てだ。

 彼は表立っては怪盗家業をしていないが、いくつかの架空会社を持ち、オークションなどに峡雨の絵が出品されないか目を光らせている。

 どうか横取りが成功しますように。

 

 その後、店を出た私たちは他の班員たちと合流しホテルへ戻った。


 部屋に着くとベッドに寝そべり、メールで澪に今日起こった出来事を報告する。

 送ってからすぐに返事が来た。

 

「大丈夫だよ。今度は一緒に取り返そう!」

 

 私は胸が熱くなるのを感じた。澪は私を信頼して、そう言ってくれている。

 

「ありがとう! 絶対に取り戻そうね!」と私は返信したのだった。


 こうして、思わぬハプニングは多数あったけれど、修学旅行は無事に終了した。

 私たちは長崎駅へ到着し、新幹線に乗って帰路につく。

 帰りの新幹線の中、私は斜め前の席にいる健太の様子をチラチラと伺っていた。彼の携帯が鳴り、席を離れる。そして、戻ってきたときの健太の表情は険しかった。

 

「……あの絵が買えなかった? 嘘だろ……」

 

 健太は誰にも聞こえないような小声で呟く。

 

「あの絵って?」

 

 こそっと声をかけると、健太は振り返った。

 

「ああ……秋山が見つけた峡雨の絵だよ。他に高値で買い取ってくれる人が出てきたから売る話はなかったことにしてほしいってさ」

「それってまさか……」と私は息を呑んだ。

「そのまさかだよ。誰かに横取りされたみたいなんだ」と健太は悔しそうに言う。

「……そうなんだ」

 

 きっと父の交渉が成立したようね! と心の中で喜びつつも、私は言葉を濁した。

 健太は窓の外に視線を移し、「誰なんだよ……」と独り言をつぶやく。

 

 絵を取り返せたのは嬉しかったけれど、手放しには喜べなかった。……どうして? 横取りしたことに罪悪感でもあるのだろうか。

 私はその考えをすぐに打ち消した。罪悪感なんて……健太にそんなこと感じていたら、仕事に支障が出るわ!

 

 私は外を見るふりをして、斜め前の席にいる健太の姿を盗み見た。彼はつまらなさそうな表情をしている。やはり、絵を横取りされて苛立っているようだ。


 私はこっそりと息をついた。

 健太には悪いけど、ターゲットが手元に戻ってきて良かった! それに健太の家にあの絵があったら、きっと彼に不幸が訪れていたはず。それは絶対に避けなきゃいけない!

 

 今回の修学旅行はハプニングだらけだったけど、結果として絵が取り戻せて本当に良かった! 

 私は気持ちを切り替えて、帰り道の新幹線で眠りにつくのだった。

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