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怪盗ヴェールは同級生の美少年探偵の追跡を惑わす  作者: 八木愛里
第一章 教会潜入編

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19/33

19 予告状を出す

『葵ちゃん! 調子はどう?』


 澪からの通信だ。

 

「まあまあだよ。そっちは?」

 

 私は耳を押さえながら話した。

 通信は盗聴されないように、ノイズが走っている。


『こっちは順調に調査中だよ。この後は、神父の近辺の調査かな』

「わかった。お願いね。……そういえば、明日の朝に予告状、出してもいいかな?」

『ついに出すんだね⁉︎』


 澪の驚いた声。麻薬の捜査が進んでいる件を伝えると、納得してくれた。

 

『わかった! そういうことなら、了解!』

「ありがとう。じゃあね」

 

 通信を切って、健太に向き直る。


「という訳だから……探偵くん、明日は私のすることを見守ってね」

「はあ?」

「華麗に予告状を出してみせるから」

「いや、待て! 俺もついていくぞ! 怪盗ヴェールが予告状を出したとなれば、また世間を騒がせることになる」

 

 健太の抗議を無視して、私はウインクする。

 

「今回は仲間でしょ?」

「そうだが……」

 

 健太は不満げにしていたが、諦めたようだった。



 ◇


 

 翌日の朝。

 十数人の信者を前に、神父は早朝のミサを行う。

 壁のステンドグラスの光が床を七色に染め上げた。


「人生とは選択の連続です。この朝、教会に来るかどうかも選択の一つだったでしょう。神の導きに従い、心の赴くままに人生を歩んでいただきたいものです」


 後方の座席近くに身を潜めながら、私は「麻薬を手に入れるのか、拒むのも一つの選択だったはず」と冷静に考えていた。

 本当に神の導きに従っていたとしたら、麻薬の誘惑を拒めたのではないか。神父の言葉は、説得力に欠けて薄っぺらいものに聞こえた。


 私は誰も見ていない隙を狙って、腕に力を込めてカードを投げた。

 カードはクルクルと回転しながら座席に座る信者の体を縫って、神父の顔の横を通る。

 

 神父は風を切る音に気づいたのだろう。聖書に視線を落としていた目をハッと上げた。


「な、なんだ!」


 神父は叫んで後ろを振り向いた。信者たちもカードの存在に気づいてざわつき始める。

 困惑した神父は、壁に突き刺さったカードを手に取った。


「あ、あれは!」

「怪盗ヴェールの予告状です!」

「神父さま……」

 

 私は警戒されないように信者たちの後方で待機し、成り行きを見守った。

 神父は懐からハンカチを出して冷や汗を拭いた。そして微笑む。


「神聖なる教会に、怪盗ヴェールからの予告状が届くとは。しかし、これも神の試練かもしれません。私はこの身を犠牲にしてでも、この修道院の平和を守る決意です」

 

 神父はステンドグラスの光を浴びた後、信者たちに振り返った。

 

「あなたたちはこの修道院から離れ、そして祈りを捧げてください。ミサは中止にして、私はこれから怪盗ヴェールの侵入に備えます」

 

 神父の言葉に信者たちは頷くと、一斉に席を立った。「神父さま! お気をつけて!」という声の中、神父は微笑む。信者たちが退室していくのを見送る。

 

「シスター、警察に連絡してください。怪盗が来るのは明日です」

「わ、わかりました!」

 

 シスターが慌てて去っていく。神父は礼拝堂を振り返って呟いた。

 

「怪盗ヴェール、あなたを歓迎しましょう」

 

 ステンドグラスの光を浴びる神父に、私は少しだけ寒気を覚えた。

 礼拝堂にはステンドグラスの光だけが残った。

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