7 本日の主役
祭りの主役は、巫女舞いを踊るサリのはずだった。
白地に蝶の模様入りの千早に、緋色の袴。黄金色の冠は陽に煌めき、非日常の象徴のように眩しい。
サリはそれらをそつなく着こなし、皆の賞賛を浴びていた。
「やっぱり素敵ね。巫女の衣装って」
「あら、衣装だけ?中身も褒めなくちゃ」
「もう、サリったら」
笑う仲間たちに、サリはしかつめらしい顔をして言った。
「いいこと、みんな。いくらお祭りだからって、あまり羽目を外しすぎては駄目よ。淑女たるもの、慎み深く行動しなくてはいけないの」
「やだ、誰の受け売り?」
「あたしは巫女よ」
「今更すましてもダメ。サリの地は、ここにいる皆知ってるんだから」
「そうよ。急におしとやかになるつもり?」
「ばれたか。ふふ。でも今日だけは許して。あたしの今日の目標、皆知っているでしょう?」
「やだ、あなたったら、まだあきらめていなかったの?あの大それた計画」
「もちろんよ。そのためにも、あたしは今日は立派な淑女で通すつもりなの。ね、応援してくれるでしょう?」
「そりゃあ、もちろん」
「うまくいくといいわね」
「今日一番目立ってるのはサリだもの。きっと上手くいくわ」
その時だった。
辺りがざわっとどよめいた。
今までサリを盗み見ていた男たちの視線が、一斉に動いた。
華美な衣装を着ているわけでも、特別な化粧をしているわけでもない。
しかし、これほど人目を引くことがあるだろうか。
ただ、いつもはくしゃくしゃの髪を梳かし、薄汚れて黒ずんだ顔を洗い、女物の衣を着る。
それだけで見違えるほど、人並みでない容姿が顕わになった。
当人は髪に着けた花飾りをしきりに気にしていたが、それは大した問題ではなかった。
レナに引っ張られて俯きがちにやってきたアカネは、唖然としたサリを見て、目を丸くして言った。
「うわあ!すごい!サリが今日一番の美人だね!」
その場にいた全員が、ぎこちなく微笑んだ。