6 春祭り
雲一つない青空のもと、いつもは労働に追われる村人たちは、嬉々として祭りの準備に追われていた。
会場となる高台には立派な祭壇が設けられ、夜通し火を焚くための薪が山と積まれた。
集落のそこかしこの台所からは美味そうな匂いがたちこめ、料理が仕上がる度に歓声が沸き上がった。
幼子たちは村と高台を行ったり来たりして無邪気に笑いあい、気の早い大人たちは酒をこっそり酌み交わした。
村中が祭り一色の中、今年成人した少年少女たちは、いつもより背筋を伸ばし、期待と緊張で頬を染めていた。
特に少女たちは思い思いに美しい帯を締めたり、花を挿したりと、精一杯のおしゃれを楽しんでいた。
アカネは家の戸口から外を窺い、大きなため息を吐いた。ついで、情けなさそうに自分の身なりを見やる。
レナの厳命でいつも以上にしっかり顔を洗い、髪をよく梳かし、いつもの作業用ズボンではなく裾の長い女物の衣を身につけた。
それが辛い。
足がスースーして落ち着かない。
なんだか自分が自分ではないようだ。
外に出るのが躊躇われ、アカネはさっきから家の中をウロウロしていた。
「あら、まだ家にいたの?」
朝から忙しく立ち働いていた叔母が入ってきて、棒立ちのアカネに微笑んだ。
「いつもは誰より早く外へ行くのに、おかしいこと」
「レナはまだサリのとこ?」
「ええ。支度に少し手間取ってて。でも、もう終わったみたいよ。巫女は祭りの主役だからね。あなたも行って見てくるといいわ」
レナの器量は母譲りで、溌剌として優しい叔母は、幼い頃からアカネを実の子のように可愛がってくれた。手放しに甘えることは出来ないが、アカネにとって母同然の人だ。
「叔母さん、あたし、変じゃないかな」
「えぇ?どこも変じゃないわよ。綺麗に支度ができたじゃないの。でも、確かにもう少し色があってもいいわね。花飾りは作らなかったの?」
「それはいいよ。似合わないもん」
「そんなことないわ。じゃあ、叔母さんの色帯を貸してあげる。着けるといいわ」
「いいよ!」
「いいから!今年は大事な年なんだから、特別綺麗にしないと。あなたが女らしくしてくれて、叔母さん嬉しいわ」
そこへ、レナが入ってきた。
「やだ!やっぱりまだここにいた。サリの支度が終わったのよ。もうすっごく綺麗なんだから、早く行きましょう。あら?花飾りはどうしたの?渡しておいたでしょう」
「げ」
「あら、あるのなら着けなくちゃ」
「やだ」
「駄目!」
親子そろってお節介だ。
よってたかって飾り付けられ、アカネはさっきよりも情けない顔で外に出ることになった。