貴方と私は違うヒト
見渡す限りまっしろの世界で、私は『誰か』と向き合っていた。
「やぁ。はじめまして、そしておめでとう。今日から君はこの世界にとって特別な人間となった」
「……はい?」
──『白髪赤目は神様の証明』。
そんな、幼い頃からよく言い含められていた容姿そのままの姿が目の前に佇んでいるというのに、……私は何故か、不思議とそれを疑問には思わなかった。
「…………あの、ちょっと意味がよく伝わらなかったみたいで……申し訳ありませんが、もう一度おっしゃっていただいても?」
「うん? いいよ、もう一回だけ言うね。今日から君が、この世界にとっての“特別”だ。ちなみに僕は神様で、これは僕たちによって決められた決定事項の通告と捉えてもらっても構わない」
「…………………………な、なるほど……」
どうやら、私に拒否権や質問権というものはないらしいです。
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ぱちん、と。夢から覚めたようだった。
……いや、これは比喩でもなく、冗談の類とかでもない。実際に眠っていた状態から目を覚ましたし、今までの『レイラ・ベネット』という夢のようなお姫様体験からも解脱させられた。これを“夢から覚めた”と言わずして何と言う。
けれど、まぁ、ひとまずは現在の状況を再確認するところから始めよう。
たしか私は先日……七歳の誕生日に、『魔術』を使う力を失った。
いつものように脳を覚醒させようと風の魔術でカーテンを開けようとしたのに、部屋の端に出現したのは小さな竜巻のようなものだけで。おかしいと思ってすぐに手元で風と水の魔術を発現させてみたけれど、それらは合わさることなく散り散りになって、呆気なくただの風と水になってしまったのだ。……あまり規模の大きくない魔術を使おうとしたときに気が付けたのは、ある意味幸運だったのかもしれない。
そうしてあの日と同じようにベッドから降りて、されど足取りはゆっくりと大きな鏡の前に移動する。
「…………」
鏡に映る私の瞳を見つめながら、ソッとそれをなぞると、正面にいる私は目に見えて落胆した。
だってそれは間違いようもなく、翡翠の瞳であったから。
「……駄目ね。期待なんかしちゃいけないのに、もう、寝て起きたら色が変わっているなんてことは起こらないんだわ」
数日前までの……魔術が使えたときの私の瞳は、暗く美しいガーネットの瞳だった。それがどうしてこんな、翡翠の瞳なんかに変わってしまったのか。そう思って「はぁ……」と深くため息を吐くも、答えをくれる神様はそんな都合が目の前によく現れるなんてこともなく。
(けれど……夢の中でお会いした神様は、たしかこう仰っていたわ。──『七つの使命を果たせよ。さすれば君に再度、僕たちからの祝福を与えよう』……と)
ならば私が取るべき行動はひとつだ。
「『使命を果たせ』。……そう神様が仰られるのなら、私はそれに従うしかないわね」
鏡の中の私に誓う。
「私は……私の名誉を信じるためにも、貴方には負けない。同じ人間だなんて、私は思ったりしないわ」
『悪役令嬢、レイラ・ベネット』。
それが神様から聞かされた、本来の私の未来図だった。