先生
「大っ変申し訳ありませんでしたっ!」
「うん……まぁ、大丈夫だから」
ナターシャが入ってきて、僕をヒカルと呼んだことでやっと分かってくれたみたい。
盛大な勘違いしてたけど多分その原因って……。
「あら、リナが何か失礼を?」
「ううん。それよりナターシャ、この人に僕のことなんて説明してたの?」
「それは勿論、ヒカル様は凄い聡明な方で男前でカッコイイとお伝えしてますよ」
やっぱり。ナターシャが原因だ。
当の本人は何も悪意が無いって言うのが尚更タチが悪い。
「リナは凄いんですよ。ルーク様も通っている王都の学園を首席で合格するくらい頭が良いんです!」
この人はリナさんというらしい。
さっきから頭を地面に擦り付けて微塵も動いてない。そろそろ怖いから頭を上げて欲しいんだけどな。
その隣でナターシャはニコニコしてる。
……本当に仲良かったんだよねこの二人?
「ほらリナ。ヒカル様はそんなことで怒らないから顔を上げて」
「…………」
「改めて紹介するわね。こちらが、エクスウェル家次男のヒカル様」
「初めまして」
僕とリナさんの間にはちょっと気まずい空気が流れてるけど、ナターシャはそれを全く気にしない。というか、気付いてない。
「では、私は失礼しますね。何かあったら直ぐにお呼びください」
「分かった。またねナターシャ」
扉が閉まって、この部屋にはまた二人きり。
どうしようか迷ってたら、リナさんが急にすっと立ち上がる。
「すみません、今から奇行に走ります。気にしないで下さい」
「あ、はい……」
いきなりの謎宣言。え、何をするんだろう。
怖いけど行動を見守る。
立ち上がったリナさんは壁の方に向かって何かを呟く。
あれは、魔法?
リナさんの周りに薄い膜が出来てる。目を凝らしてようやく見えるくらい薄らとした膜が。
「ふぅー……ナターシャのバカー!!!!」
「うわっ」
本当に奇行だ!
いきなり叫び出した。ビックリした。
自分から奇行って言うから気になって見てたけど、本当に奇行だった。壁に向かって突然叫ぶなんて。
叫び出したら止まらない。日頃の不満を一気に叫び出してるみたいだ。
「……すみません。では改めて自己紹介します」
「うん。ストレスは発散出来た?」
「えっ?」
「え?」
聞いちゃまずかったかな。
でもあんなに叫んでたら気になっちゃうし。
「聞こえてたん、ですか?」
「うん。あれだけ大きな声出してたら……」
「な……」
あれ、これもしかして言わない方が良かったヤツ。
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