昔のお話 後編
さてお次はレルブ、レルベップさんたちのお話。
「彼らが治めている西方で昔、とある凄惨な事件があった」
これまた長そうな予感。
「世界的に危険とされる魔獣が現れ、一人の男に討伐された」
「一人で倒したの?」
「そうだ。単独で討伐したその男は賞賛され、レルベップ伯爵ら西方域の貴族たちが祭りを開いた」
貴族が集まってお祭りを開くなんて随分大掛かりだ。
話を聞く感じ、その魔獣に受けた被害も甚大っぽいし復興も兼ねてたのかな。
「復興の希望とも言えるこの祭りにその男は招かれ……全てを壊した」
「えっ?」
「開催していた貴族や参加していた一般人、通り過ぎの冒険者と手当たり次第に襲って行ったのだ」
それは……なんとまぁ。
「返り血を浴び雄叫びを上げながら無差別に暴れる男はまさに怪物。我々は持てる全ての戦力でどうにか男を討伐した」
「もしかしてその人……」
「あぁ。黒い髪だった」
やっぱり。
でもそれだけで黒髪は厄災を招くって、言い過ぎな気もするけど。
「元々あの地方は染黒病という病に悩まされていたりと、なにかと黒は不吉の象徴とされていた。そして二度目の黒髪による襲撃でとうとう限界を迎えた」
「……二回目?」
「さらに昔、これは昔過ぎて記録が少ないのだが、建物や地形が滅茶苦茶になる大惨事があったらしい」
そしてその犯人も黒髪と。
何、黒い髪の人って悪いヤツばっかなの? まるで僕まで悪いことをするみたいだからやめて欲しい。
実際それで冤罪まがいなことをされた訳だし。
「と、そういった理由であちらは黒髪を嫌悪している。我々がこの土地に来た時から何かとちょっかいを出されていたと聞く」
「ふぅーん。……ところでさ、なんでそれを僕に教えてくれなかったの?」
僕の家系のことも相手の事情も分かった。
けどそれ自体はさほど気にしてない。一番気になるのはこの部分。
公の場に出るのならそこら辺の知識はあって損は無いだろうに。
「……可能なら、ヒカルには何も知らないまま育って欲しかったのだ」
僕はエクスウェル家の次男。
長男でもあるお兄ちゃんにも黒に似た髪色は引き継がれているから、僕に継承義務はない。
だから昔のことなんかに囚われず生きたいように自由に生きてほしい、とお父さんは願っていたらしい。
そんなふうに思われているなんて考えてもなかった。
きっかけは良くないことかもだけど、その考えや気遣いを感じれたのは嬉しい。
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