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ブチ切れた



「まったく。お父様の言う通りだ」


しかし、さっきからおデブちゃんの言葉が気になる。

確かに僕の髪色は珍しく、僕以外には見たことがない色だ。

でも、おデブちゃんの言葉は何か違う。

“黒髪”に対して恐怖や侮蔑のような感情が込められている気がする。


「『黒髪は厄災を招く』。変な真似したら許さないからな!」

「はぁ……」


厄災を招く、か。

こりゃ随分と根が深そうな話。

僕は何も知らない。お父さんが何か隠しているんだろう。

本当に、人に恨まれる出来事があったら、僕の行動で家族に迷惑がかかる。

正直、言動なんて子供だから気にしないだろうって思ってたけど、少し意識を改めた方がいいかも。


「お前の兄もそうだ。不正して首席になるなんて貴族の誇りもないのか!」

「オイ」

「ひっ!」


あーそれはダメだ。

頭の中にあったモノが全部吹き飛んだ。

僕は良しとしよう。家の事も不快ではあるけど受け入れよう。だがお兄ちゃんを貶すことは許さない。


「今なんて言った? オマエ」

「ひぃい!」


デブは悲鳴を上げるだけで何も言わない。

さっきまでの饒舌はどこへやら。

周りも騒がしい。ただの子供の戯れだ。喧嘩なんてよくある話だろうに。


「……ふぅ。もう1回言ってみろ」

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

「謝罪じゃなくて。なんて言ったか聞いてんの」

「ふ、不正してし、首席に、にな、なったって……」

「僕のお兄ちゃんが不正? する訳ない。……訂正しろ」


周りが騒ぐからちょっと冷静さを取り戻せた。

感情がコントロール出来てないんじゃ僕もまだまだ子供だな。

本音を言えばそんな噂を流した全員を片っ端からぶん殴りたい衝動はあるけど、堪えなきゃね。


「で、でも……じゃなきゃおかしいって言ってて……どうせ不正だって……」

「チッ」

「ひいぃいぃいぃ!ホントだって!黒髪はそういう人間なんだって!」


また黒髪か。

ここまで黒髪って言われると流石にイラッとする。

訂正は無かった。コイツはお兄ちゃんをバカにした。

……1発くらい殴っても許されるよね。


「そこまでだ!」


おっと。

結構な大きさの声。

そっちを見ると、お父さん。と主催者のイルドネリフ公爵。

騒ぎすぎたかな。

うーん、でも殴りたいから1発だけっ。


「落ち着け」


いつの間にか。本当にいつの間にか僕が振り上げていた腕は団長さんに抑えられていた。

全然分からなかったなぁ、流石だ。

けど、まぁ、仕方ない。大人しくしよう。

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