成長したりしなかったり
おはよう、と言うのは少し違うかな。
一瞬視界が暗転したけど、どうやらそれは転んだかららしい。
体に力が入らない。
上手く歩けないで転んでしまったんだろう。
さてどうしよう、泣きそうだ。
「ヒカル!」
「ふぅ」
お兄ちゃんが駆け寄ってくれる。
けどちょっとそれどころじゃない。
こう、抗いがたい感情の波が押し寄せてくる。
鼻がジーンとして視界がぼやける。
でも抗えている。
「頑張れ、ヒカル」
お兄ちゃんはすぐに察してくれて、僕を見守っている。
期待に応えたい。
そうだ、ちよつと転んだだけ。
別に痛くもない。平気だ。
大丈夫、大丈夫。
「ぐぅ」
「その調子。偉い偉い」
「ん!」
感情を押しのけて、ゆっくり立ち上がる。
目元に溜まった涙を拭いく。
「凄いよヒカル!よく頑張ったね」
お兄ちゃんが抱っこしてくれる。
ほんとに頑張った。
今までで一番頑張ったんじゃないかってくらい。
だから褒められるととても嬉しい。
泣くのを我慢するのって、こんなに大変な事だったとは。
そりゃ泣いちゃうよ。
でも我慢出来た。
これは大きな進歩だ。
進歩はあったけど変わらないこともある。
例えばそう……ね。
■ロ■ロ■
おはよう。
若いの最上位にいる僕の体はちょっと寝ただけで完全に筋肉痛が無くなった。
この体の便利さを初めて実感したよ。
さて、転んで泣きそうなのを我慢したんだけど、それで疲れちゃったのか寝てしまった。
しかも珍しくそのまま次の日の朝まで寝ていたらしい。
久しぶりにぐっすり眠ったから気分が良い。
さて、今日はお兄ちゃんが来ない日だ。
この世界の暦は知らないけど、三日に一回くらいお兄ちゃんは午後まで部屋に来ないことがある。
勉強とかしてるんだと思う。
普段なら部屋中を歩いたり、屋敷の中を歩いたりするんだけど、昨日の事があるからって今日は一日中部屋でゆっくり過ごすらしい。
となったらやることは一つ。
気絶する心配も無いし、部屋には乳母さんしかいないから気兼ねなくいじれる。
それじゃ早速、伸ばしてみる。
ん、おぉ……お、うん?
伸びた。
いや、今までも伸びてたんだけど。
ヌルッと伸びた。しかも疲れない。
今までは固くなった粘土みたいな物を強引に伸ばしていたんだけど、今やったらこう、麺を伸ばすみたいな柔らかさ。
麺なんて伸ばしたことないけど、そんな感覚。
何がきっかけかは分からない。
でも簡単に伸ばせるようになった。これは、やるしかないな。
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