お母さんの思い
「改めて、約一年の時を経てパルゥが我が家に帰った」
お父さんの声。
庭に設置された広いテーブルの上には沢山のご飯が並べられている。
「命を落としてもおかしくない、そう言われていた母子も今はこの通り、元気だ」
僕は今、妙に豪華な椅子に座らされている。
隣には同じような椅子に座るお母さんの姿。
「この一年間、やりずらいことも多かっただろう。これからは元通り」
声に熱が入る。
身振りも交えて演説のように語っている。
「一年遅れてしまったが、我らの家に新しい命が産まれた。その輝かしい誕生と母体の無事を祝って、乾杯しよう」
僕の前にもガラスのコップが置かれる。
すごく高そうな、ちゃんとしたガラスのコップ。グラスって言った方が良さそうかな。
「さぁ、乾杯!」
「「「乾杯」」」
■ロ■ロ■
盛り上がっていたけど、僕には良く分からない。
退屈だったからなのかすぐに寝てしまった。
そして多分その日の夜。
なんだろうこの既視感。
窓の外を覗けば人でも居そうな……。
「ん、起きた?」
「……」
いた。
窓の外じゃないけど、人がいた。
窓の外の明るい月に照らされて柔らかく微笑むのはお母さん。
乳母さんも近くにいるっぽい。
「元気そうで良かったわ……本当に」
「だぅ」
「貴方はね、もしかしたら産まれることが出来ないかもしれなかったの」
初耳の情報だ。
窓際にいたお母さんは僕に近づく。
「死産って言ってね。私のお腹の中で死んじゃったんじゃないかって」
「あぃ……」
「私も体調が良くなくて、ヒカルが生まれた時に離れなきゃ行けなくて」
前世の、医療が発達した日本でも出産は大変なことだ。
この世界において命の危険が伴うことは簡単に予想できる。
「ごめんね……」
「あゃう」
「ちょっと遅くなっちゃったけど、ちゃんと、育ててあげるから」
僕の体を優しく撫でながらそう言うお母さん。
きっと、お母さんに非は無い。むしろ生まれた僕と言う存在がお母さんに影響を及ぼした可能性だってある。
だと言うのにこうやって僕のことを気にかけてくれる。
そのことがとても、嬉しい。
「何かを成しえなくてもいい。ただ健康に、ひたすら生きていて欲しい」
「……」
「こんなこと今のヒカルに言うのもおかしいけど……なんだかヒカルなら分かってくれそうで」
相槌を打とうか迷う。
実際僕は言葉を理解している。
けどそれを伝えるのが、少し怖い。
そして大事な話をしてくれていると言うのに、眠気が襲ってきた。
「おやすみ、ヒカル。明日からはずっと一緒だよ」
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