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離乳食の難しさ



男の人は無事捕まった、らしい。

あの後項垂れた男の人が連行されて、その後のことは知らない。


そんなことより、僕の容姿が気になる。

お兄ちゃんは凄くイケメンだ。日に日に視界が明瞭になって、その度にイケメン度を再確認するくらいに。

だから僕も、お兄ちゃんほどでなくても整った顔だといいな、と思っていた。


でも、あの男の人は僕を女だと思っていた。

僕は赤ちゃんだ。性別を間違えられるのも仕方ないのかもしれない。

勝手に自分は前世みたいにしっかり男だと思ってた。

将来はムキムキマッチョで、ちょっと周りの人から頼りにされるくらいの人になりたいと妄想していたのに。


「ヒカルっ!」

「ぁい」


……お兄ちゃんに可愛がられるなら、別に何でもいいかもしれない。


ちょっと苦しいくらい抱き締めてくれる。

それくらい大事に思ってくれているのはとても嬉しい。


とやかく考えてたって何も変わらない。

今はとにかく普通に、健康に生きよう。


僕はまだ、何も知らない。

自分のこともこの世界のことも。

だから、どう生きるとか、どうしたいとか、そういう決断に踏み込めないでいる。

今はとにかく生きて、そこ先を掴めるようにしよう。



■ロ■ロ■



そして、またまた一ヶ月が過ぎた。

変化と言えば、離乳食が始まったくらい。


「はい、あーん」

「あー」


離乳食は、離乳食だった。

自分が食べた記憶なんてなかったけど、確かに赤ちゃんがご飯を食べれる練習みたいなご飯だから固形じゃないのは当然だよね。


お粥みたいな柔らかいトロトロのもの。

味は……薄い塩味。

これがなんとも微妙。

不味くは無い。だからといって美味しい訳でもない。


そしてなにより肉体との齟齬がある。

体の中、僕の精神は十六歳。

でも肉体は一歳未満。

食事という行為を頭で実行しようとしても、この体では初めての行為だから上手くいかない。


出来るはずなのに出来ない、と言うのが物凄く不快だ。

思うように行かないとモヤモヤする。

でも地道に、少しづつやっていくしかない。


これで不味かったら断固拒否していたかもしれない。


課題が一つ増えた。


上手に歩けるようになること、そしてご飯を上手に食べれるようになること。

これが当分の目標だな。


決意したって時間の流れは変わらない。

一日は有限だし、眠さもある。

赤ちゃんが食事中に寝る理由が分かった。疲れるんだ。


今の、僕……みたい、に。

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