サンドバッグ
「またかぁ……」
王都への旅路は順調で、今はエクスウェル領を抜けてナンタラ領。ここまでくれば村人から話を聞いたり街にちゃんと寄ったりをする必要はなくなる……筈なんだけど。
「うちの子に名前を……」
「街の近くでゴブリンが……」
「収める税が高くて……」
僕に言われても何も出来ないんだけど!
エモルドゥの助けも借りてなんとか凌いだけど、これが続くとなると相当困る。
「そもそもなんで僕が貴族ってバレてるの」
「ん」
「ん?」
つい零れた愚痴にエルピスは指を指す。
その方向には僕たちが乗ってる馬車。……あー、ものすごく貴族御用達って雰囲気漂ってるね。
どうりで街に入ったら視線を感じる訳だ。
我こそが貴族なりって奴が来たらそりゃ反応する。
「念の為聞くけど別の馬車に乗り換えとか」
「出来ません」
デスヨネー。
これも試練か……。はぁ、仕方ない。
王都に着くまでの辛抱だ。もう少し我慢しよう。
■ロ■ロ■
「……止まって」
えーっと……ひぃふぅみぃ、15人くらいかな。
少し道が細くなったところで囲んで、って感じか。
念入りに落とし穴まで掘ってある。
「盗賊か」
「片付けて来るので暫くお待ちを」
「待って」
「ヒカル様……」
相手は極悪非道な犯罪者。
僕たちは襲われた被害者。
まだ動きは無いけどギンギンに殺意を感じる。
そうなったらもう……。
「僕もやる!」
「…………はい?」
正当防衛しかないでしょ。
いやぁ念願だ。良く来てくれた盗賊たち。
「へっへっへ、呑気に馬車から出てきやがったか」
「俺らはここいらを縄張りにしてる盗賊団だ。命が惜しかったら金目のものを置いて消えな」
「お金を置いたら逃がしてくれるの?」
「あぁ良いぜ。……女以外ならなぁ!」
…………そう言って僕に襲いかかってくるんだ。
性に飢えた獣みたい。女は襲うって? 僕に襲いかかってきて?
「……僕は男だー!」
「ぐぼべはっ!」
ふぅ。おっといけない。
感情をあまり出さないようにしないと。
今みたいに手加減出来なくなっちゃうからね。
「な、なんだコイツ」
「バケモンかよ」
「一旦退却――」
「――逃がすとでも?」
君たちはサンドバッグだ。
力が戻った僕の肉体を動かす練習に付き合ってもらう。
拒否権は無い。
「ひっ、ひ、ひぎゃぁあああああああああああ!」
ぶん殴られた盗賊は一応生きてます。一応。
魔物は倒したことのあるヒカルですが人の命を奪ったことはまだ1度もありません。本人は手加減無しのつもりでも無意識のうちに抑えていたようです
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