幼女と言葉と
あれ?
意識が飛んだ。そう思ったら変な所にいた。
右も左も、前も後ろもずっと先まで何も無い。そして地面は真っ白。
顔を上げると白黒テレビを見ているみたいなモノクロの空。
「……なんだここ」
『またなの?』
「え?」
声がした。ビックリして何回か瞬きしたら目の前に幼女がいた。
いや、僕も今は赤ちゃん……じゃない。
今の僕は体がちゃんとある。死ぬ前の僕の肉体だ。
『そんなに死にたいの?』
「死にたくはないよ。死のうと思ったことも無いし」
呆れたように言う目の前の彼女。
一度もそんなことは思ったことがないけど、一体なんの事だろう?
『自殺未遂ばかりしてたのに?』
「え、そうなの?」
『え?』
一度も自殺未遂なんて、と思ったけど確かに乳母さんの慌てようは凄かったし、何も知らなかっただけで可能性は捨てきれない。
……あれ、もしかして凄い危険なことしてた?
「…………」
『…………』
気まずい沈黙が流れる。
心底呆れた様子の彼女の視線がすごく痛い。
『遅れたけど、コレ』
「えっと……?」
『“言葉”をあげる。手を出して』
言われた通りに手を出してみる。
彼女の身長に合わせて屈む。自分より小さい人を見るのは随分と久しぶりに感じた。
彼女は僕の掌に何かを乗せた。
それは実体がなくて、温かさとかも感じないけど確かにそこにある。
多分、体の中のモヤモヤに似てるやつ。
それを受け取った瞬間、体が浮遊感に包まれる。
『あんまり無茶しないで。死なれたら困る』
「気を付けるよ。助けてくれてありがとう」
『……私の意思じゃないわ』
そろそろお別れだ。でもまた会える気がする。
あ、名前聞いてなかった。
「ねぇ、名前はなんて言うの?」
『…………私は“チェイン”よ』
「チェインちゃん。ありがとう─」
別れ際。
何故か怒った顔をしていた彼女の姿を最後に僕の意識は暗転する。
……いつもなら直ぐに目が覚めるけど、今回はまだ暗闇の中だ。
しかし、彼女は一体何者なのだろう。
どうやらずっと僕の行動を知っていたようだけど。
分からないことを気にしても仕方ない。意識が覚めるまではのんびりしていよう。
それじゃあおやすみ。
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