麻耶と楓の話 第10話
今回、残酷な描写がございます。
苦手な方はご自分の心を守ってください。
「ふふふ。…何してんの?」
必死に体を動かす。
ジタバタしている私はきっと死ぬ間際のセミみたいだろう。
楓はニヤニヤ笑いながらしゃがんで私を見ている。
もう…もうやめて。
私が知りたかったのはこんなんじゃない。
本当の顔なんて知らない方が良かった…。
ポタポタと楓の風呂上がりの髪から滴る水が私にかかる。
かかるたびに少し乾いてきていた傷に染みて、一滴垂れるたびに激痛が走る。
紅い涙を流すように目から滲んだ血が溢れる。
「や、やめ…て。いや…。」
声を絞り出す。
…家に帰りたい。
お願い。家に帰りたいよ。
こんな所で死ぬなんて。
…こんな所?
急に頭に映像が浮かぶ。
これって、"走馬灯"ってやつ?
小さい私がこのアパートでお母さんと話している。
あれ?でも、私ここに住んだ事はないはず。
ん?よく見たら私じゃない…?
これ、誰だ?
私の両親は小さい頃に死んだ。
事故と病気だったと聞いている。
私には両親の記憶がほとんどないのだ。
一生懸命に思い出そうとしても全く思い出せない。
だから、両親が亡くなった後に入所した児童養護施設の先生や里親になってくれた育ての親である今の両親に聞いてみた事がある。
でも聞いた大人はみんながみんな揃って同じ反応をした。
喉の奥に何かが引っかかったようなスッキリしない物言いと眉をヘの字に曲げて勘弁してくれって顔。
…私が本当の両親の事を聞くとみんな困る。
それが分かってからは、私から聞く事は一切なくなった。だから、よく分からないのだ。
どんな人達だったのか?
私は愛されて望まれて生まれてきたのか…。
自分のルーツを知らないというのは不安だ。
たとえそれがどんなに残酷なものだとしても。
「ねぇ。そこからどうするの?逃げるの?」
面白いモノでも見るかのように楓は薄ら笑いを浮かべて私に聞く。
私はまた必死に体を動かす。
…帰りたい。もうヤダ。
誰か助けて。
ふと何かが動く気配の後、グッと背中を踏まれた。
「うぐっ…ふっ、ぐぅぅ。」
息が出来ない。
「逃げんなって言ったじゃん。お仕置きだね〜。」
私を踏みつけたまま、楓は玄関にあった私の骨の曲がった傘を手に取った。
バシッ
バシッ
鞭打ちでもするかのように私の体を叩く。
痛い…痛いよ。
もう私に抵抗する力は残っていなかった。
ただひたすら痛みに耐えるだけ。
バシッバシッ
反応が薄くなったのが面白くなくなったのか、今度は尖った傘の先で刺し始めた。
ドンッドンッ
グシャッ
今度はグリグリと傘の先を押しつけてくる。




