麻耶と楓の話 第2話
「それであんまりにも雨と風が酷いから、帰りにどっかで雨宿りしようかって話になったの。」
…私はあの台風の日の事を少しずつ思い出しながら、麻世ちゃんにゆっくりと話し始めた。
その日は前日から天気予報で言っていた通り、私達の住んでいる街に大型の台風が直撃した。
朝の通学時には多少風が強かったけど、まだ雨は降り出していなかった。傘を持っていつものように楓と待ち合わせて学校へ向かう。
学校に着く頃には雨がシトシト振り出してきて、2時間目が終わるチャイムが鳴った時には、すでに結構な土砂降りになっていた。
私は休み時間になると必ず楓の席まで行き、他愛もない話をするのがいつもの日課だった。
「台風直撃って言ってたもんね。朝はまだ平気だったのに土砂降りになっちゃったし。帰りヤバいかなぁ…。」
「帰りは傘も差せないんじゃない?風も強くなってきたよ。」
楓は窓の外を見ながら不安げに言った。
「まぁ、あんまり酷くなるなら授業繰り上げで帰れるでしょ?早く帰れてラッキーかもね!えへへっ。」
「また麻耶はそんな事言って…。」
私が茶化して言うと、楓は苦笑いした。
こんな時、私は楓との間にふと心の距離を感じる。
ノリが違うっていうか、何となく「私と貴方は違うのよ」っていう空気を感じるんだよね。
他の子達なら「そうだわ〜!マジ早く帰れるのラッキー!」とか「帰りどっか寄る?」とか。
そんな会話が普通だと思う。
でも楓との会話でそんな風に盛り上がった事は一度もない。
まだ人見知りしてんのかな…?
遠慮しなくていいのに。
と思ってはいたが、無理に距離を詰めて嫌われるのはイヤだった。
その後、3時間目の授業が終わると担任が教室へ入ってきた。
「見ての通り酷い天気なので、今日はここで授業を終了して帰宅してもらいます。皆支度して。」
クラス中から「ラッキー!」とか「うわ。でも雨やべーな。」なんて声が口々にあがる。
ザワザワした中、急いで支度して席に着いた。
「はーい。皆座ったか?さっきも言ったが、今日はこのまま授業は終了。これから本格的に台風で雨風が強くなるとの予報だ。寄り道しないでさっさと帰るように!以上。」
「きりーつ!礼。…さよーならー。」
と緊張感のない挨拶の後、バタバタと皆教室から出て行く。
「かーえで!帰ろ!」
荷物を持って楓に声をかけた。
…ん?ボーッとしてる?
何かを思い詰めたような暗い表情に何故か背中がヒヤッとした。
…なんかいつもの楓じゃないみたい。




