麻世と茜とクロ 第3話
私はアパートの階段に座って毎日麻耶の事を待っていた。
麻耶はそれに気づいていたのかな?
お腹を空かせている私に毎日のようにおやつを持ってきては、とても楽しそうに話をして帰っていった。
ほんの少しの時間だったが、本当に本当に楽しくて私が麻世という自分自身になれる唯一の時間だった。
実はその頃、みんなが寝静まった後に私一人で部屋を抜け出し茜ちゃんのお母さんについて調べていた。
まぁ、同化する時間が長くなるにつれて茜ちゃんに飲み込まれてしまわぬよう、時々離れる必要もあったのだけど。
こっちはこっちで色々大変だったのだが、それはまた後で話すとして。
私は嘘をついて麻耶に会う事に罪悪感を感じながらも、妹である彼女をやはり守っていきたいと決意を新たにしていた。
今はまだ茜ちゃんとクロの事があるから、それが落ち着いたら今度こそ麻耶を…。
そう思っていた矢先の事だった。
ふと我に返る。
そうだ。今は思い出に耽っている場合じゃなかった。
男が覗く隙間から窓の外を見て驚いた。
…楓だ。
両脇を男二人に固められ、連れられて歩いて行くのが見えた。
アレは…警察よね?
…一体、あの子何やったの?
なんだか物凄く嫌な予感がして慌てて203号室を見に行く。
壁からスゥーッと部屋を覗いてギョッとした。
…部屋中が血まみれなのだ。
同じアパートの部屋とは思えない。
生臭い血の鉄っぽい臭いが鼻をつく。
部屋の中を見渡してみて、愕然とした。
…え?嘘。……麻耶だ。
頭を割られて血まみれで死んでいる。
嘘…だよ…こんなの嘘だ。え?…なんで?
…なんでこんな事になったの?
こんなの意味がわからない。
さっき連れて行かれた楓の顔が思い出される。
何故連れて行かれるのか理解している顔には見えなかった。
まさかと思うけど、悪い事したと思ってない…?
あり得ない。
麻耶があんなに心配して仲良くしようとしてたのに。
アイツなんなんだ?
…絶対に許さない。
………殺してやる。絶対に。
身体が怒りで震える。
でも今じゃない…。わかってる。
自分の気持ちが暴走するのを抑えるのがやっとで、その時の私の感情に刺激されて、眠っていたクロを起こしてしまった事に気づかなかった。
どうして!?なんであんなに優しい麻耶がこんな目に遭わなきゃならないのよ!!
気持ちを落ち着けられないまま元の部屋へと戻る。
すでにクロが暴走してしまっている事にも全く気づかなかった。
…私はあまりのショックにどうする事も出来なかったのだ。




