麻世と茜とクロ 第1話
お願い!私を受け入れて。
貴方を助けたいのよ…!
私の願いが受け入れられたのか分からないが、何とか無事に同化したみたいだ。
入り込んだ茜ちゃんの中はやっぱり真っ暗で、暗いのに何故か寒々しい。ヒンヤリと冷たい空気が纏わりつくようだ。
「茜ちゃん!…聞こえる!?」
まずは、大きめな声で話しかけてみる。
「……。」
やはり何も返ってはこない。
「ねぇ?今、凄くツラいでしょう?私が変わってあげようか?」
今度は優しく声をかけて警戒心を解くつもりだ。
「……。」
でもやはり返事はない。
無言を貫き通すというよりは何も反応出来ないっていうのが正解なのかな?
「茜ちゃん…ごめんね。私のせいでこんなにツラい思いさせちゃった。」
この状況に胸が痛む。心苦しくて思わず呟いてしまった。
すると
「ツラい…怖い…痛いのイヤ。ねぇ、助けて。…誰か助けて。」
小さな小さな声でそう聞こえた。
「茜ちゃん!?聞こえたよ!私が助けてあげるから。ごめんね。本当にごめん!…もうゆっくり眠っていいのよ?」
私がそう言うと
「…わかった。ありがと。」
とホッとしたような声がした。
そして急に視界が切り替わった。
…さっきの階段だ。
あ。入れ替わったんだ。
へぇ〜こんな風に変わるんだぁ。
初めての体験にソワソワしながら自分の体を見回す。
茜ちゃんの体だ。
目線もちょっと低い。
手も足も何だか小さくて不思議な感じがした。
でも体はダルくて相当に消耗しているのが分かった。
自分の中に茜ちゃんとクロがいる。
二人は今は眠っているみたいだけど、暴れ出したクロをどうやって抑えようか。
その時を想像して背中がヒヤッとする。
上手く出来る気が全くしない。
まぁ、その時はその時かな…。
よーし。とりあえずは体力の回復だ。
「あの野郎。このままで済むと思うなよ…?」
何故かどこかのドラマで見たおじさんみたいな台詞が口から飛び出して思わず笑う。
何だか私らしくなって来たじゃない?
ヒーローに憧れるのは何も男の子だけじゃない。
女の子だって誰かをカッコよく助けるヒーローに憧れるんだから。
茜ちゃん。無事にお母さんに会わせてあげるから安心してね。
そんな気持ちとは裏腹に重たい体をゆっくりと持ち上げて階段を上っていく。まだ動きはぎこちない。
少しずつ慣らしていくしかないみたいだ。
最初から何でもかんでも上手くはいかないか。
この体の動きじゃ、あの男に何かされても抵抗は出来ない。
しばらくは大人しくしているしかないか…。




