麻世の過去と茜 第6話
押さえつけられていた力がフッと少し緩んだ。
ハァッと息を吐き、呼吸を整える。
…ふとソレが喋り出す。
「ワタシ アカネヲ マモル。…マモルタメ ウマレタ。」
相変わらずガラガラに乾いた低い声で、カタコトみたいに辿々(たどたど)しく話す。
何だか声と話し方のギャップが大きくてやけに子供じみて聞こえた。
「ねぇ、守る為ってどういう事?……あ、もしかして」
少し考えてみて、ある可能性に思い当たった。
さっき辿った茜ちゃんの記憶では、201号室の男から暴力を受け食事を抜かれ暴言を吐かれるなどかなり酷い事をされていた。
その記憶を覗いた時に聞こえた声もだいぶ切羽詰まったものだった。
…やっぱり茜ちゃんは限界だったのか。
ウメさんから聞いた事がある。
人は辛い事から自分を守る為にもう一人の誰かを自分の中に作ってしまう事があるって…。
その誰かって言うのが、コレなのかな?
誰かなのか、何かなのか私にはよく分からない。
とにかく得体が知れなくて怖いことだけはわかる。
「ねぇ?貴方が茜ちゃんの味方なら、私と同じ目的だと思うんだけど。」
「モク、テキ…?ワカラナイ。」
「貴方はあの男、201号室の男から茜ちゃんを守ろうとしてるんじゃないの?」
「…ソウダ。アイツ、ワルイヤツ。ユルサナイ。」
やはりそうだ。
…二重人格ってやつ。
そんなになるまで辛い思いをさせてしまって、本当に茜ちゃんには申し訳ない事をしてしまった。
何とかして茜ちゃんが今よりも心穏やかに過ごせるようにしてあげたい。
「ソイツダケジャナイ。…アイツモ。」
「あいつ?あいつって誰…」
「アイツノハナシ スルナ。」
再び体に何かが乗ったかのようにズシリと重くなる。
「ち、ちょっと!やめて…うぁっ。」
まただ。金縛りにあったように動けなくなり、首に手をかけられる。
ソレと目が合う。
真っ暗な目だった。
ポッカリ空いた二つの穴は目だ。
黒い塊のはずなのによくよく見ると、人の顔が浮かび上がって見えてくる。
お願い…やめて。
苦しいよ。
痛いよ。
…「お母さんやめて!痛いよー!」
昔の記憶がフラッシュバックした。
「やめろーーっ!!」
ドンッとソレを弾き飛ばした。
「…やめて。痛いのイヤ!」
キッと睨んで言う。
「ウ、ウゥ。ナンダ オマエ。」
真っ黒い塊のまんまだけど、顔をしかめているように見える。
「…あんた、名前は?」
もう遠慮しない。こんな奴こっちが飲み込んでやるわ。
「ナマエ…ナイ。ナマエ ナンダ?」
「ないの?じゃあ、あげる。」




