麻耶と麻世の過去 第9話
声をかけて気づいた。
そうだ。私の声は届かないんだった…。
でも、このままには出来ない。
無駄だと分かっていたが、女の子の手を引いて歩く母の前に両手を広げて立ち塞がる。
気づかないで体を通り抜けるかも!と目をギュッと瞑った。
しかし、母は私の目の前で立ち止まり声をかけてきた。
「…え、アナタ何なの?」
「わ、私が見えるの?」
思わぬ反応に驚いてパッと顔を上げ返事をする。
そういえば、最後に会った時も母は私が見えているようだった。あの時は身体が弱っていて神経が過敏になっているせいだと思っていた。
「はぁ?当たり前でしょ。見えてるわよ!おかしな事言うわね。…というかアナタ何なの?邪魔しないで。」
「ね、ねぇ!私が誰かわからない?」
「は?アナタみたいな子、知らないわよ。そんな事どうでもいいから、早くそこをどいてちょうだい。」
そんな事?どうでもいい?
「え…何言ってんの?私の事、本当にわからないの?」
「知らないわよ!アンタ誰よ!しつこいわね。」
女の子は座り込んで泣いている。
甲高い声がキンキンと響き、イライラが増す。
「…へぇ。私の事、わからないんだ。」
私の中で何かカチッとスイッチが入った音がした。
静かに怒るってこういう事なのね…。
「まぁ、私の事はいいわ。…で、何してんのって聞いてんだけど?」
私の様子が変わった事に気づき、母は少し狼狽えた。
「ア、アンタには関係ないでしょ!さっきから何なのよ!」
「関係ないって事はないわね。だって…」
「…その子、私の妹だもの。」
「…は?え、何言ってんのよ!この子に姉なんて……ま、まさか!?」
「そう、そのまさか。」
「そんなはずないわ!麻世はもう何年も前に死んだんだから!」
「…ねぇ、ここまで言っても信じてくれないの?」
少し哀しくなって泣きそうな声になる。
「な、なんで!?だとしたらなんで今になって私の前に現れたの!…あんなに会いたかったのに。」
母は頭を抱えて苦しそうに言った。
「会いたかった…?最後にあんな酷い事を言っておいて?」
「違う!違うのよ!ずっと…ずっと謝りたかったの。あの時は色々な事が重なって心も体もボロボロだったから。…いえ、こんなのただの言い訳ね。貴方には関係ない事だわ。ごめんなさい。」
母は言いながら気持ちを整理しているようだった。
すると突然頭を下げて母は言う。
「本当にごめんなさい。こんな事したって許してもらえるなんて思ってないけど、貴方を助けてあげられなかった。」




