麻耶と麻世の過去 第6話
「…やめておきなさい。母親にアンタの姿は見えないし声も聞こえない。会ったところでまた傷つくだけだ。もうこれ以上、辛い思いをする必要はないだろう?」
おばさんは諭すように静かな声で言った。
「わかってる。…わかってるけど!やっぱりお母さんに会いたいよ。」
ポロポロと涙をこぼす私を見て、おばさんはため息をついた。
「はぁ…仕方ないね。行ったところでどうなるわけじゃないか…。何かあった時の為に緊急連絡先を聞いておいたんだよ。アンタの母親が行きそうな所はたぶんそこだろうから住所を教えてあげよう。」
「え!いいの!?おばさんありがとう。」
「ただし!会ってみてどうにもならないと分かったらすぐに戻って来なさい。いいね?」
「…わかりました。」
おばさんに母の居場所を詳しく教えてもらい、私はすぐにそこへ向かった。
母の実家の存在を私は知らなかった。
まぁ、私はこんな子供だし知るわけないんだけど。
母は意外と近くにいた。
隣の市にある普通の一軒家だった。
どうせピンポンを押したって私の事は見えないんだし、下手に関係ない人を怖がらせるよりいいか。と考え、家の周りをグルッと飛びながら様子を伺った。
母は二階の一室で一人寝ていた。
その姿を確認する為に窓に近づくとスゥッと体が通り抜け部屋へ入れてしまった。
「こんな事も出来るようになったのか…。」
私は本当に人ではないものになったんだなと改めて実感した。
部屋のベッドに横たわる母は痩せこけてしまっていて、身体中傷だらけで本当にボロボロの状態だった。
「うぅ。う〜ん…。」
寝ているのにとても苦しそうにうなされていて、私は思わず声をかけた。
「お母さん。…お母さん、起きて!」
「う、うぅ。…ま、麻世…」
うなされながらうわ言のように私の名前を呼んだ。
「お母さんっ!お母さん!!」
母は薄っすらと目を開けた…。
「麻世…なの?い、いや…あっちへ行って。来ないでよ。」
汚い物でも見るような凄い形相で母は私を睨んだ。
「え…。お母さん?私だよ?麻世、だよ…?」
「いや!こっちに来ないでっ!アンタなんか!アンタなんか…産むんじゃなかった。」
その言葉を聞いた瞬間、身体の芯が凍ったような気がした。スッと熱が引き頭に血が上るのがわかった。
「…なんで?なんでそんな酷いこと言うの?」
また力を使ってしまう…ダメ!
今度はお母さんまで殺すの?
「なんで!?そんな事、お前に言ったってわからないだろ!」
母は別人のように叫んだ。




