麻世と麻耶の出会い 前編
麻世は男が家にたどり着き安心して涙する姿を陰から見ていた。
「いい大人でも安心すると泣くもんなのね。ま、ツラい記憶もきちんと消してあげるからせいぜい頑張って。」
そう小さく呟くとスゥッと姿を消した。
その後、男は落ち着いたのか布団に横になってしばらくすると寝息を立て始めた。
……
翌朝、目覚めた男はパソコンとにらめっこをしている。
あれこれと検索し、事件の内容や犯人の中学生が今どこにいるのかを調べていたのだ。
「…わかったぞ。都内にいる。」
男はそう呟くと調べた内容をメモした。
犯人の中学生は事件の残虐性に加えて、更にクラスメイトを狙って計画していた事がわかり精神鑑定を受ける事になった。
結果、責任能力はあるものの日常生活を送る為には治療が必要だと判断されたらしい。
未成年ということもあり今は医療少年院に収容されている事がわかった。
しかし、怖い世の中だ。
ネットで調べると本当かガセかは別としてありとあらゆる情報が手に入る。
いつ自分があちら側になるかなんて紙一重。
今の俺なんて綱渡りみたいな生活だな…。
今の自分がかなりヤバい事は誰よりもよくわかっていた。
なんでこんな事になっちまったんだろうなぁ。
でもまぁ、今更ジタバタしてもしょうがねぇし、なるようにしかならん。
夜まで体力温存しとくか。
しばらくは布団でゴロゴロしていたが、男は再び寝息を立て寝てしまった。
……
昨夜201号室の男の様子を見た後、麻世はいつものアパートの階段に座り思い出していた。
あのお姉ちゃんに会ったのは201号室の男に拾われてしばらくしてからだった。
「…死んでもお腹って空くんだな。」
お腹がグーグー鳴って動けなくなった私はアパートの階段に座っていた。
「ねぇ、あなたここのアパートの子?」
制服を着たお姉ちゃんに声をかけられた。
「え?お姉ちゃん、私が見えるの?」
「ん?見えるの?って変な質問ね。まるで自分は見えないみたいじゃない。」
そう言うとお姉ちゃんはクスクス笑った。
ふんわりとパーマのかかったこげ茶色の髪が肩の辺りで揺れていて、明るく笑うお姉ちゃんはとても可愛かった。
「で、聞きたい事があるんだけど。あなたのお名前は?」
「私?…麻世です。」
「えっ!麻世ちゃんっていうの?偶然ね〜!私は麻耶っていうのよ!」
「そうなんですか!?」
「うん!そうなの!なんだか良いお友達になれそうね〜。」
ニッコリ笑いかけたあの優しい笑顔が凄く素敵で今でも忘れられない。




