201号室と麻世のその後 前編
茜の父が息絶えてまもなく看守が異常に気づき騒ぎ始めた。
「おい!何をしてる!?返事をしろ!おいっ!」
ガチャガチャと鍵を慌てて開ける音がする。
麻世は見えないように隠れて様子を見ていた。
「残念。…もう死んでるわよ。」
小さく一言呟くと再び空へと上がっていった。
その頃、眠っていた201号室の男は状況が上手く飲み込めないまま車を自宅まで走らせていた。
茜の父の所へ行く際に麻世が体から抜け出た事で、乗っ取られていた体を取り戻していたのだ。
男はしばらくして目を覚ました。
「う、う〜ん。頭いてぇ…。」
酷い頭痛に顔を歪め、こめかみに手を当てる。
ハッと気づき、辺りを見回す。
「く、暗いけど外だ!え?車…?」
状況が上手く飲み込めない。
慌てて自分の無事を確かめる。
顔や頭、腕、足など体中を触って生きているかを確認した。
「は、はぁ…。とりあえず生きてるな。」
あの暗闇に閉じ込められていた間、生きた心地がしなかった。
アイツはどこに行ったんだ?
辺りを探しても見当たらない。
「に、逃げよう。とにかく家に帰りたい。」
ポケットを探るとスマホがあった。あ、財布もある。
地図アプリを使って現在地を確かめる。
「は?か、神奈川!?なんだってこんな所に…。」
家までの経路を調べる。
「1時間半はかかる。でも、ここにいる訳にはいかない…ダメだ。行こう。」
ふと、アイツのあの真っ暗な目を思い出して身震いする。
「も、もうあんな奴に関わるのはごめんだ!なんでこんな事になったんだよ…。」
エンジンをかけ、カーナビをセットして発進する。
そして、走りながら思い出していた。
あの暗闇で何も出来ず、ずっともがいていた事を。
何にもない。
誰もいない。
何の音もしない。
…本当の暗闇。
光も音も感じない世界は恐怖でしかなかった。
アレが何だったのか俺には到底わからないが、あんな所は二度とごめんだ。
もともと俺は一人でいる事にあまり抵抗のある方ではなかった。
むしろ、誰かとつるむのは向いていないと思っていたし、一人の方が気楽だと考えていた。
でもそれは本当の意味で独りになった事がなかったからなんだ。
今は誰もがSNSなどで簡単に人と繋がれる。
本当に一人っきりになる事はあまりない。
ただ、俺の身に起きた事を誰かに話したとしても信じてはもらえないだろう。
「女の子の化け物に体を乗っ取られたって…。あり得ねぇだろ。」
赤信号で止まるたび、しきりに辺りを見回す。
ヤバい。怖い…。来るのか?




