102号室 第1話
…私が悪いんじゃない。あの人が私を捨てたから…あんなに幸せだったのにどこで間違えたんだろ…。
「ちょっと早く食べなさいよ!保育園間に合わないでしょ!?」朝の支度が遅い娘を怒鳴る。
ガシャッ!「あ〜もうっ!またこぼしたの!?本当にグズなんだから!自分で拭きなさいよ!」目に涙を溜めて一生懸命に拭く娘を見てもイライラしかしない。
バシッ!また手が出てしまう。
「もう…アンタなんか産むんじゃなかった!」
なんでこんな母親になったんだろう…一度はあんなに可愛いと思ったこの子が疎ましいのはなんで?
三年前、大好きな彼の子供を授かった。
嬉しくて嬉しくて泣きながら彼に報告した。
…けれど、彼は喜んでくれなかった。
「お前、薬飲んでたんじゃなかったのかよ。こんなの聞いてねぇし、俺子供なんかいらねぇからな。絶対産むなよ!面倒くせぇ。」彼はそう言い捨てそのまま帰って来なくなった。
私は意味がわからず、現実を受け入れられなかった。
まともな判断がつかず気付けば中絶出来る時期を過ぎてしまっていた。
しばらくたって人づてに聞いた話では、彼には家族がいて妊娠中だった奥さんと上手くいってなかったらしい。私はただ都合よく使われていただけだった。
「私は本気で好きだったのに…こんな酷い事されるなんて…。」恨み言を言ったって彼が戻ってくる訳じゃない…日に日に大きくなるお腹を抱えて私は思った。
(こんな私の所に産まれたって幸せになんかなれっこない。一緒に死ぬしかないか…)そう考えた時、お腹が動いた。初めて胎動を感じたのだ。
「こんな私でもママになっていいのかな…。」またお腹の中で動く。まるで返事をしているかのようだ。
涙が止まらない…この子とこれから生きていこう!絶対に私が守るんだ!そう決意した。
子供を産んでから必死で働いた。19の時に家を飛び出して頼れる家族はいない。きっと家族には死んだと思われているだろう。もともと家の中に私の居場所はなかったから、誰も気にもしてないはずだ。
子供が赤ん坊のうちから預けて昼も夜も働き、何とかやっていた。
そんなある日、彼が突然やってきた…。
「ひ、久しぶり。なぁ、元気にしてたか?」
急に声をかけられ頭が真っ白になる。
(なんで!?なんでこんな所にいるの!?)
上手く声が出せない…言いたい事は沢山あるはずなのに!