麻世と茜の父 第2話
危うく怒りに任せて、あっという間に死なせる所だった。
こんな奴、簡単に死なせてなんかやらない。
ちゃんと反省するまでお仕置きしないと。
「ねぇ、お父さん。なんで私が来たのかわかる?」
気を失う寸前で止められ、朦朧としているのだろう。
焦点の合わない目でフラフラと首を横に振る。
「わかんないの?…嘘でしょ?私に何したか覚えてないの?」
信じらんない!
やっぱりこんな奴は生きているべきじゃない。
茜ちゃんは痛い思いして、寂しい思いして辛かったのに!
絶対コイツここから出てもまた同じ事するでしょ?
悪い奴はどんなにお仕置きしても悪いままなんだよ!
今までもそうだった。
自分より弱くて守らなくちゃいけない存在を痛めつける奴にロクな人間はいない。
いつも最後は口先だけで何度も謝って命乞いをする。
自分が助かりたい一心で。
…コイツもたぶんそうだ。
「…ゴホッ。ハァハァ。な、なぁ。俺がわざと死なせた訳じゃないだろ?謝るからさ!頼む!許してくれないか?」
少し回復したようで、茜の父親が急に喋り出す。
「……。」
私は何も答えない。…やっぱりか。
「頼むよ!それがダメなら……俺を殺してくれ。」
「は?何言ってんの?何も反省してないのに簡単に死ねると思わないで。」
言ってから「あれ?」と思った。
死なせる事だけがお仕置きじゃない…?
いや、でも他に酷い目に遭う子を減らさないと。
自分のしてきた事、今からしようとしている事が本当に正しいのかわからなくなる。
…これでいいのか?
死にたいって言ってるコイツの願いを叶える事になる。
「…なんで死にたいの?」
「もう、俺には未来なんてないだろ。誰も俺の事なんて気にかけないし、ここから出たって普通の生活なんてどうせ出来ない。」
「結局、自分の事ばっかり。そういう所がダメだって言われないとわからないの?…いい大人のくせに。」
茜の父親は黙ってしまった。
そうしてしばらく考えた後、ポツリポツリと話し始めた。
「俺、ずっと逃げてばかりだったんだ。子供が出来たって言われた時も、借金作って離婚された時も、お前を死なせた時も。」
「そうよ!あの時すぐに救急車を呼んでくれたら、私は助かったかもしれないのに。…いつも自分の事ばっか。」
「そうだな…。そうだ。俺はいつも自分の事しか考えてない。きっと今もそうなんだろうな。」
…なんだこれ。
今までこんな奴いなかった。
死にたいから殺してくれなんて初めて言われた。
どうしたらいいんだ…?




