102号室と大家の話 第6話
お婆さんが再びお経を唱え始めると、また体が白っぽく光りどんどん薄くなっていく。
あぁ。これで苦しい事とはお別れなんだ…。
私の人生って何だったんだろう。やっぱり思い返してもツラい事ばっかりだった。
でも唯一、茜を産んで育てられた事。
それだけが私がこの世に産まれた意味なのかもしれない。
結局、守ってあげられずに沢山寂しい思いをさせてしまったけれど、こうして今一緒にいられてどんなに幸せか。
「茜、お母さんと行こう!ね?」
「うん!お母さんと一緒に行く!」
二人で顔を見合わせて笑う。
お婆さんを見ると、お経も終わりに近いようだ。
お経を唱える口の動きはそのままに、私と目を合わせて上へ行くよう目配せした。
私は何も言わず、静かにでも力強く頷いた。
「お婆ちゃん!ありがとう!」
茜が大きな声でお礼を言う。
その声が届くか届かないかという刹那…
私達の体はスゥッと消えてしまって、ただの白い光となり空へと昇っていった。
まるで流れ星が逆流するかのようにそのまま昇って消えたのだった。
「…さて。無事にあの二人は上へ行ったようだね。」
空が白み始めた頃にようやく一息ついた。
あの後、麻世を布団に寝かせていたが気づけばまた姿を消していた。
「あの子は何をしたいんだろうね…。困ったもんだ。」お茶をすすりながらため息をついた。
少し戻って、その日の夜の事。
仕事を終えて部屋に帰って驚いた。
アイツを入れてたケージの鍵が壊れていた。こんな事あるか?
「お前っ!なんで鍵が壊れてるんだよ!?」
ケージの中で震えていたアイツを引きずり出す。
バシッ ドカッ
蹴っても殴っても何の反応もない。
「くそっ!鍵買い直しじゃねぇか!」
近くにあったゴミを投げつけ怒鳴る。
アイツはケージに戻りガタガタ震えている。
「はぁ。つまんね。なんなんだよ!」
ガシャンッとケージを蹴飛ばし、布団に寝転ぶ。
仕事で嫌な事があり、ムシャクシャしてたのに更にこれだ。
「やってらんねぇわ。もう寝ろ!騒いだらどうなるかわかってんだろうな?」
「…コ、ロス。」
小さな声で何か聞こえた。
「あ?今なんか言ったか?」
何の反応もない。気のせいか?
帰りがけに一杯ひっかけて来たせいか、すぐに眠気が襲う。
男はあっという間にイビキをかいて寝てしまった。
男が寝たのを確認すると、麻世はスルッとケージから音もなく出て大家の家へ向かう。
「アカネ。…アカネヲヨコセ。ワタシノモノダ。」
真っ暗な目を見開いて静かに呟いた。




