102号室と大家の話 第5話
「さて。準備が整ったよ。こっちへ来ておくれ。」
お婆さんに奥の和室へ通される。
部屋に入ると正面に仏壇があり、ご主人と思われる方の写真があった。…優しそうな人だな。
お香を焚いているのか部屋全体が白っぽくなって煙たい。
「二人並んでそこへ座りなさい。」
茜と二つ並んだ座布団に手を繋いで座る。
「これから上へ行くための儀式に入る。ま、儀式とは言ってもお経を読んで、二人が上手く通れるように道を作るだけだから、たいして時間もかからんさ。」
茜は緊張しているのか、握る手に力が入る。
「茜?大丈夫?」
心配して声をかけたが、声も出ず小さく頷くだけだった。
「何も痛い事はないよ。あまり心配するんじゃない。」
お婆さんは優しく微笑んだ。
「じゃあ、始めるよ。怖ければ目を瞑っておいで。」
……低く小さな声だ。ボソボソとした喋り方なので何を言っているのかはよくわからない。
茜は、ギュッと目を瞑って硬くなっている。
私は手をしっかり握り直した。
始めてどのくらいだろう…?
何だか体がフワフワする気がして、少し不安になる…。
茜を見ると、うっすらと身体が白く光り薄くなっている。
「え!?茜!身体がっ!」
「わぁ〜!お母さんも!」
自分の体を見ても同じように光り、少し薄くなっている。
驚いているとお婆さんのお経がピタリと止まる。
「ハァ。もう少しだってのに…。あんた達はここにいな。」
よっこらしょと声をかけ、お婆さんが立ち上がる。
「いるんだろう?出てきな!」
襖をパーンッと勢いよく開けると麻世ちゃんが立っていた。
「ジャマ、スルナ。…アカネヲヨコセ。」
「何を言ってんだい?渡す訳ないだろう。さぁ、邪魔しないでおくれ!」
そう言うとお婆さんはさっきとは打って変わって、力強く大きな声でお経を唱える。
「ヤ、ヤメロ…!ウ、ウゥ。」
麻世ちゃんが頭を抱えてもがく。
「ウ、ウゥゥ。ウァァァ…」
…バタッ
呻きながら麻世ちゃんが倒れる。
「麻世ちゃんっ!」
茜が駆け寄ろうとする。
「行くんじゃないっ!お母さんの側にいるんだ!」
お婆さんが怒鳴った。
ビクッと体が震えて茜が止まる。
「駄目だ。行っちゃいけない。…お母さんと二度と会えなくてもいいのかい?」
お婆さんが静かな声で諭す。
茜は黙ったまま首を横に振る。
「…そうだ、良い子だ。麻世は大丈夫。眠ってるだけだからね。さ、後は婆ちゃんに任せときな。…お母さんと手を繋いで。」
そう言うとまた低く小さな声でお経を唱え始めた。




