アパートの秘密 第25話
ザッ…ザッ…ザッ…
酔って力の入らない足を引きずり、母屋から中庭へと入った男はアパートの一室へと近づく。
「…あ?なんでこの部屋に電気がついてんだ?俺専用の部屋だっただろうが。くそっ!」
文句を言いながらぐるりと部屋の扉側へと回り、103号室の扉の前に立つ。
鍵がかかっているかもしれないが、ほとんど使っていなかった部屋だからもしやと思い、ドアノブに手をかける。ガチャリと回す。
(なんだ。鍵かかってねぇじゃねえか。ラッキーだな。)
「…あれぇ?ウメさんもう帰ってきたのかな?」
中から可愛らしい少女の声がした。
男の手がピタリと止まる。
(もしかしてあの女再婚したのか!?子供がなんでここにいる?しかも声からするに結構デカいだろ?いや、なんでこんなデカい子供が??)
沢山の疑問が男の頭の中を一気に駆け巡る。
かなり酔っ払っていたが思いもよらぬ状況にスゥッと醒めていくのがわかった。少しずつ冷静になる。
(待てよ。もしこの子供を人質にして脅したら、あの女は言う事聞くんじゃねぇか…?)
家も金もなく路頭に迷っていた男は少しでも自分に有利に事が運ぶようにと考えていた。
「…ウメさんだよね?あれ?急に喋ったから驚かしちゃったかな…。」
ペタペタと歩く音が扉へと近づく。
扉の前で足音が止まり、外に向かって紗奈は言った。
「…あ、あのね!私、ウメさんに謝らないといけない事があるんだ。今まで黙っててごめんなさい!」
しかし、扉の前にいるのは、紗奈にとっては顔も知らない男だ。
男は無言で部屋の中へ入るタイミングを測っている。
「実は私、かなり前から喋れてたの…。でも、なかなか言い出せなくて。本当にごめんなさい。」
そこまで言い切った所で突然扉が開いた。
バンッと大きな音を立てて入ってきたのは、見知らぬ男で酒のニオイを撒き散らしながらこちらに向かって手を伸ばして来た。
驚いた紗奈はサッと身を翻しその手を避ける。
「きゃあ!やめてっ!!誰なの!?」
紗奈は部屋の奥へと咄嗟に逃げた。
「ちっ。すばしっこい奴だな。」
男は一撃で仕留められなかった事を悔やむ。
(面倒くさい事になったな。サッサと終わらすか。)
そう思い、改めて獲物である紗奈の方を見たのだが…。
「…お、お前、本当にあの女の子供か?」
男は紗奈の美しさに見惚れて動けなくなった。
艶やかな髪に驚きと恐怖からか潤んだ瞳。
紅潮した頬と形の良い唇。
男は紗奈から目を離せず、頭から足の先までゆっくり見つめた。




