アパートの秘密 第24話
「よぅしっ!そろそろ完成かな?」
紗奈は椅子から立ち上がり自分の作品を眺めてみる。
「いい感じじゃない?久しぶりに会心の出来だわ!ウメさん喜んでくれるといいなぁ〜!」
ニッコリと笑い「うんっ!」と頷いた後、片付けを始めた。
そろそろウメが帰ってくる時間だ。
片付けて母屋へ戻りお茶を飲みながらこの絵の話と実は話せるのだと伝えようと思っていた。この絵が完成したら話すつもりでここ最近ずっと納得のいくまで絵と向き合ってきていた。
「タイミングよく私の誕生日になるなんて、なんか運命的だよね〜。今日は素敵な気持ちで眠れそうだなぁ。」片付けながら紗奈は呟く。
この後起こる最悪な事態にはまだ誰も気づいていなかった。
「…あぁ?鍵が開かねぇな。」
母屋に辿り着いた男は引き戸を力任せにガタガタとさせながら文句を言っていた。
この家とアパートがあるのならきっとあの女はまだここに住んでいるんだろう。以前は有り得なかったがこんな時間に出かけるようになったのか?
「ははっ。これはますますお仕置きのしがいがあるなぁ。」ニヤニヤしながら男は扉を動かす手を止めた。
そして“いつもの部屋”へと向かった。
「あの部屋なら今だに誰も住んでねぇだろう。」
相変わらず酔っていてフラフラの足で母屋からアパートへと向かっていた。
その頃、ウメは退勤予定の時刻を少し過ぎてまだ仕事をしていた。
「ウメさんごめんねぇ。これだけ終わったら上がっていいから。」
申し訳なさそうに店長が言う。
「この位なら大丈夫ですよ。じゃあ、これだけ終わったら帰りますね。」
そう言いながら苦笑いするウメ。本当は早く帰りたくてずっとウズウズしていた。出勤してしばらくしてから何やら嫌な予感がして消えないのだ。
…虫の知らせのようなものだろうか?
ウメは寺の娘でこういった類の勘のようなモノが小さい頃から人より鋭かった。
(この感覚はヤバい。絶対に何かが起こる時のヤツだ。直感だがこれは確信できる。)
(早く…とにかく早く帰らないと。気持ちは焦るが仕事はきちんと片付けて帰ろう。)
…後にウメはここで帰らなかった事をとても後悔する事になる。
「お疲れ様でした!お先に失礼します。」
いつも以上に集中して丁寧だが素早く仕事を終わらせたウメは飛び出すように職場を出た。
足が気持ちに付いてこないほど前へ前へと急ぐ。
「早く…早く帰らないと…」
はぁはぁと息を上げながらウメは家へと向かって走った。
あの角を曲がればもう…




