アパートの秘密 第14話
ウメは頭を上げないまま黙っている。
亜希は土下座を何とかやめさせたくて無理やり体を起こして強く抱きしめた。
「やめて!ウメっちは何にも悪くない!たとえ本当に犯人が旦那さんだとしてもウメっちがそんな事しなくていいんだよ!!」
泣きながら亜希はウメの背中を撫でた。
「…でも、ごめん。どうしたらいいかわかんない。」
ウメの声も泣いているのか震えていた。
二人はどうする事も出来ずにただ泣いている。
その二人の横にユラリと黒い影が近づいた。
「…え?」
亜希が先に気づき顔を上げた瞬間。
シャッ!!と何かで引っ掻くような鋭い音が響いた。
「あ。……ウメっち…ダメ……」
驚いてウメに知らせようとした声が聞こえたと同時に亜希の体は引き裂かれシュワッと泡のように消えてしまった。
突然の事にウメは反応出来なかった。
ただ微かに感じていた温かさが消えてしまったのだけはわかっていた。
「…な、なんで?亜希?……えっ?」
頭が追いつかない。
何故、亜希が突然消えたのか?
一体誰の仕業なのか?
考えなくちゃいけないのに目の前でユラユラとしている影を見つめるしかなかった。
何も出来ずに呆気に取られているウメの前で黒い影が変化した。ユラユラと煙の様だった影はぼんやりと人の顔の形になり、ウメの顔の前でニヤリと笑ってみせた。
その顔を見たウメは一瞬で湯が沸いたように怒りに支配され目の前が赤く染まった。
腹の底からフツフツと上がってくる怒りのままウメは「ガァァァッ!!」と雄叫びの様な声を上げ、黒い影に両手を伸ばし掴み取った。
顔の下にある、人間なら首だと思われる辺りを力一杯絞める。理性を失い自分が自分ではなくなるような感覚がしていた。普段では出せないようなとてつもない力が出ているのが実感出来る。
「…コロス!コロシテヤル!!」
地の底を這うような低い声が自分の喉から出ている。
これは私の声だろうか?今、首を絞めているのは本当に私?
自分でしている事なのに別の誰かがしている事を眺めているような錯覚に陥る。
『なんだ?これは?』
突発的に殺人を犯す人間の心理が理解出来た。
怒りに支配されると歯止めが効かなくなる。自分で自分を止められない。
「…あぁ、これはダメだ。」
黒い影の首を絞めながら小さく声を漏らした。
すると、手の力が抜けた。
…影はフワリと消えた。




