アパートの秘密 第12話
「お願い?私に出来る事なら協力するよ。なんだい?」
「あのさ。……ウメっちの中に入れてくんない?」
亜希は両手を合わせて顔の前に出し、その手の横からウメの様子を片目でチラッと覗いていた。
「ん?中に入れるってどういう…?あ。そういう事か。」
ウメは一瞬言葉の意味がわからず困惑したが、過去の経験からすぐさま理解したのだった。
「う〜ん。あれ、疲れるからなぁ。」
渋るウメに亜希は再びお願いする。
「頼むよウメっち!たぶんこの機会を逃したら紗奈に二度と触れられない!」
「触れられない?…紗奈に何かしてやりたいのかい?」
亜希の様子にウメは聞き返す。
「紗奈にしてやりたいって言うより、あたしが紗奈に触れたいが正解かな…。寝てる顔見てたら頭撫でてやりたくなった。」
ウメは同じ母親として気持ちが痛いほどわかる。
「そういう事か。じゃあ、ほら。いいよ!」
そう言ってウメは両腕を広げた。
「えっ。いいの!?」
「いいに決まってるさ。私でも目の前に娘がいたら撫でてやりたいと思うからね。」
ウメはニッコリ笑って亜希を促した。
「ありがとう。じゃあ、遠慮なく!」
嬉しそうに笑って亜希はウメの腕の中へと飛び込んだ。
スゥッとウメの体の中へと吸い込まれるように亜希が入っていった、
……
「なんかやっとちゃんと会えた感じだね。」
ウメの中に入った亜希は暗闇の中で手を伸ばしながら声をかけた。
「こっちだよ。…そうだね。やっと顔を見合わせて話した感じだ。まぁ、私らはもっと早く出会ってたら友達みたいなモンになれたかもしれないね。」
ウメは亜希の手を引いて照れくさそうに言った。
暗闇の中でぼんやりと白く光って見える二人は、お互いの手を取りタイミングを合わせて上へと飛び上がった。真っ暗闇だったはずだか上の方にはほんの小さな光の点の様なモノが見えていた。その点は近づくにつれて大きくなっていく。
「ウメっちさ、あたしらってもう親友なんじゃないの?」
クスクス笑いながら亜希が言う。
「…親友?そんなの居たことないからわかんないね。」
不思議そうに首を傾げながらウメは答えた。
「じゃあ、あたしが最初の親友って事で。」
ニヤリと笑っていった亜希の顔を見て、ウメもニヤリと笑い返した。
クスクス笑いながら楽しそうに二人は光へと向かっていく。
「さぁ、そろそろ出るよ。」
ウメの声に亜希は頷いた。
……
「紗奈…こんなママでごめんね。」
ウメの姿をした亜希は涙を流しながら紗奈の髪を撫でていた。




