アパートの秘密 第9話
目の前で勝手に閉まった扉を見た女は、ひとまず押し入れの上段に少女を寝かせる事にした。何か変化があった時すぐに助けられるよう押し入れの襖は開けておいた。
スヤスヤと眠るような様子の少女の髪を撫でた女は部屋の中をぐるりと見渡した。そして畳の上に胡座をかいてドカッと座り、そこにいるであろう何者かに声をかけた。
「さぁ、これでゆっくり話が聞けるよ。どこに居るんだい?教えてくれ。私ならアンタを助けてやれるだろうから。」
ドンと来いとでも言うかのように堂々と座った女は声をかけた後、少し待った。…すると、座っている畳の下からコツコツと叩くような振動を感じた。
「まさか…この下にいるって?冗談だろ?」
胡座をかいた自分の足を少しズラして畳を見る。
女が気づいたのが嬉しいのか、畳の下からグッと持ち上げられるような感覚がした。
「えぇ!?勝手に畳を上げる訳には行かないだろ?どうしようかね?」
小さな声でブツブツ言いながら女が畳の縁に手をかけた。
…その時。
トントン…と肩を誰かに叩かれた。
「えっ!?」
驚いて思わず声が漏れる。
ゆっくりと後ろを振り向くと、そこに居たのは派手な見た目をした若い女だった。
(…あぁ、これが母親だな。)と女は思う。
20代前半と思われるその女は、ギラギラしたネイルと根元の黒くなった長い金髪で丈が短くピタッとしたピンクのワンピースを着ていた。
辺りに香水の甘い匂いが漂っている。
この家を見つけた時に青臭い草の香りに混じっていたのはこれだった。
「ねぇ。あたしさ、この下にいるんよ。はぁ…やっと話せる奴が来てくれて良かったわ。」
母親らしき若い女はそう言いながら、女の前に向かい合わせで同じく胡座をかく。スカートの中が見えようがお構い無しで煙草を取り出し吸い始めた。
…まるで生きてそこにいるかのような振る舞いに女は少し戸惑う。女が困惑しているのが分かったのか、母親は「あぁ、ごめんね。…一応、これでも死んでんだわ。」と寂しそうに笑った。
女は大きく息を吸い込んだ。
煙草の臭いで眉間に皺を寄せながらも気持ちと呼吸を整える。
「とりあえず。何があったか話せる所から、いい?」
女がそういうと母親は頷いた。
「話しづらいからひとまず自己紹介ね。あたしは亜希。あの子は紗奈。今は5歳。」
押し入れで横になっている少女を指差して言った。




