アパートの秘密 第8話
女が大きく開いた扉の先にあったのは、何もない空っぽの部屋だった。
「えっ?……何もない。」
明らかに気配がして酷い臭いもしていたはずなのに部屋に入った途端、全く感じなくなった。
(そんなはずない…絶対に何かある。)
そう思った女は部屋の中をぐるりと見回してから、迷いなく奥にある押し入れに向かった。
(何かがあるとしたらここに…!)
家具もなく不自然な程に誰かがいた形跡など一切ない部屋だったが、ここにならあるかもしれないと考えた。
手をかけてフゥッと軽く息を吐き、勢いよく襖を開ける。
スパーン!と大きな音を立てて中が見えた。
……空っぽだった。
「ここにも何もない。一体どういう事なんだ?」
訳がわからず困惑していると後ろで何者かの気配を感じた。
慌てて振り返った女は驚いた。
ユラユラと体を揺らしながらそこに居たのは少女だった。
しかし、何やら様子がおかしい。
「どうした?外で待っていないとダメだろう?」
女は少女に言い聞かせるように少し強い口調で言う。
しかし、少女は何も反応しない。
心配になった女が一歩近づこうとしたその時!
「ガァッ!!」と獣のように吠え、ギラついた目つきで少女が飛びかかってきた。
「うぁっ!!何だ!?」
驚いたが咄嗟に体を捻り、女はスルリと躱した。
壁の方を向いていた少女がゆっくりとこちらを向き、四つん這いの状態で下から睨んでくる。
(何か取り憑いてるのか?…人じゃない。)
こんな時でも女は冷静に状況を分析していた。
やはり過去の経験があるからか?
「やめるんだ…私は敵じゃない。わかってるだろ?」
格闘技でも齧っていたのか、すぐ動けるように身構えた女は落ち着いた声で優しくなだめるように言った。
「グルルル…」
少女はピクリとも動かず唸っている。
(これじゃ埒が明かない。…仕方ないか。)
覚悟を決めて少女に向かおうとスッと足を一歩後ろに下げた。
その瞬間、女の動きに反応した少女が再び飛びつく。
「ウガァッ!!」
バシッ!と何かがぶつかる音と共に少女がその場に倒れる。
攻撃を避けながら首の後ろを的確に叩き、女は少女を気絶させたのだった。
幸い少女に怪我はないようだ。
「一体何が起こってるんだ?」
首を傾げながら女は呟き、その場で少女を抱き上げた。
(とにかく一旦帰って出直そう。このままじゃ何もわからない。)
立ち上がったその時。
ギギィ……バタン。
部屋の扉が目の前で閉まった。
「やっぱり居たか。…仕方ない。ゆっくり聞くとしよう。」




