アパートの秘密 第7話
あまりにも激しく泣くので女はしゃがんで再び声をかけた。
「そんなに泣いてどうしたのさ?」
少女は服をギュッとつかみ、泣きながら首を横に振る。その様子を見て、もしかしたら中に入るのを止めようとしているのかもしれないと気づいた。
「行くなって言いたいのかい?」
女の言葉に少女は勢いよく縦に首を振った。
「心配してくれてありがとうね。本当ならアンタの思う通りにしてやりたいんだが、そうもいかないんだよ。あの家は今、普通の状態じゃないんだ。…大丈夫。私に任せときな。」
そう言いながら女は少女の体を優しく包み込んで抱きしめた。突然の事に驚いたのか少女は泣き止んで体を強ばらせる。
「大丈夫…大丈夫だ。…ね?」
トントンと背中を優しく叩き、落ち着かせる。
少女はゆっくりと頷いた。
「よし。じゃあ行ってくる。アンタはここで待ってな。…ついてきちゃダメだからね。」
低く少し気合いの入った声で女は少女に言った。
雰囲気の変わった女の様子に少女はゴクリと喉を鳴らした。ここに居ては邪魔になると考えたのか、道路からは見えない塀の内側で小さく膝を抱え座ったのだった。
女は「よし。いい子だ。」と言いながら小さく頷きニッコリと笑う。そして扉の方へ向き直り、ふぅっと息を吐いて気合いを入れた。
(おそらくこの子の母親だろう。何があったのか少しは分かればいいんだが…。)
静かにガチャリとノブを回す。
ギギィ…と音を立てて扉が開くと、再びあの臭いが襲ってくる。「うっ。」と声をかすかに上げた女は腕で顔を庇うようにしながら家へと入っていった。
その後ろで少女がニヤリと笑った事に気づく事はなかった。
……
「今から家に上がるよ!何があったか調べさせてもらうね。」女は誰もいないはずの静かな家の中に声をかけた。
そう声をかけた途端、外からでは全く感じなかった誰かの気配を女は察知した。
(…こっちか。)
その気配を辿り、奥へと続く廊下をゆっくり進む。
一番奥の部屋の扉が閉まっていた。
近づく程に強くなる臭いと気配。
扉の前に立ち、手をかけようとしたその時。
ガチャ…
音を立て女の目の前で勝手に扉が開いた。
「おいおい…そんなに焦らなくても今行くさ。」
やれやれと女は笑いながら呟く。
(余程、私に伝えたい事があるらしい。これは覚悟しないと。)
女は扉を大きく開いた。




