アパートの秘密 第2話
……慎二になら頼めると思ったんだ。
お前に最後に頼みたい事がある。あのアパートの事だ。
アパートを取り壊して更地にして欲しい。
そして出来るならその後に作って欲しいものがある。
お金の心配ならいらないよ。仏壇の小さな引き出しに通帳が入ってるからそれを使っておくれ。今まで面倒みてやったんだ。最後くらい私の頼みを聞いてくれたって罰は当たらないだろう?じゃ、後は頼んだよ。』
「ウメさんらしいや。ぶっきらぼうだけど優しくて、口は悪いけど俺の負担にならないように気遣ってくれたんだろ?」
ウメさんは何も言わないしこちらも見ないが、きっと伝わってるだろうと信じて話した。
「じゃあ、俺行くわ。後のことは心配しないで。アレの手配は時間がかかりそうだけど何とかなりそうだから。」
最後に反応を見たが、ウメさんは何の反応もしなかった。
「じゃあ、また来るね!風邪ひかないようにね…ウメさん。」
慎二は一方的にそこまで話すと静かに病室から出ていった。
慎二が出て行って離れた事を感じたウメさんはようやくフゥッと息を吐いた。
「最後にこんな事を頼んじまってすまないね。でも、アンタにしか頼めないんだよ。…頼んだよ、慎二。」
慎二が出ていった扉を見つめながらウメさんは申し訳なさそうに呟いた。
……
「なぁ、ウメさん。あの骨ってなんなんだ?俺訳がわかんないよ。警察に聞かれたって俺には絶対分かりっこないんだけどさ。ウメさんは何か知ってたんじゃないの?」
月に一度しか面会に来ない慎二が、先週来たばかりなのに突然やって来てベッドの側で小さな声でまくし立てるように言った。
私はボケたフリをして知らないまま話が進むように仕向けたのだった。
「ねえ、ウメさん。この事知ってたの?」
泣きそうな顔をして縋るように慎二はこちらを見て言う。
「なんの事だか私にゃわからないね。アンタは一体誰だい?」
わざと険しい顔をして慎二を睨みながらそう返した。
「…ウメさん、本当にボケちゃったの?あんなにしっかりしてたのに。俺、こんなの信じらんないよ。」
慎二は頭を抱えて深いため息をついた。
(慎二…すまない。私の最後のワガママだ。このまま通させておくれ。)
……
今から何十年も前の事だ。
「うるせぇっ!!俺のする事に口出すんじゃねぇ!!」
若かりし頃のウメさんも夫の暴力に悩まされていたのだ。




