茜とクロ 第3話
ドサッと音がして男の母親がその場に倒れた。
母親が驚くのも無理はない。
男の体からは魂を抜いた状態だから、普通の人が見たら死んだと思うのは当然だ。
実際、呼吸もしなければ心臓も動かない。
「ごめんなさいね。でもアンタの息子の為にした事だからさ、許してよね。」
クロは意識のない母親に声をかけた。
そう…これは男が自ら望んでした事。
茜の母にどうしても会いたいとせがまれて仕方なくクロが動いたのだ。まぁ、クロが復讐する為に仕組んだ事でもあったのだが。
「さぁて。面倒な事になる前にさっさと片付けますか。」
クロは背伸びをして肩と首をポキポキ鳴らしながら、男が横たわるベッドに近づいた。
そして、男の体の上へ両腕を伸ばして意識を集中し始めた。
目を瞑ってふぅっと息を吐いたクロは顔を歪ませながら、両方の手のひらに力を入れた。すると、黒いモヤのような物が湧き出てきてどんどん男の体へと吸い込まれていく…。
数分ほどそうしていただろうか。
黒いモヤがどんどん薄くなり手から出なくなった。
目を開けたクロは最後の仕上げに男のおでこをサッと撫でる。
「あ、あれ?ここは……?病院に帰ってきたのか?」
散々部屋で喚き散らしていたからなのか、男は落ち着いた状態で目を覚ましたようだ。
「おはよう。…起きた?」
なるべく刺激しないようにクロは笑顔で声をかけた。
「あ。お、おはよう。茜…ちゃん、だよね?」
「どうしたの?何があったのか覚えてないの?」
クロに声をかけられた男は首を傾げた。
「あれ?俺、どうしてたんだっけ?」
嘘でしょ!?覚えてないの!?
クロは何とか顔に出さないよう気をつけながら男に再び声をかけた。
「お兄ちゃん大丈夫?覚えてないなら無理に思い出さなくて大丈夫だよ。…ね?」
なんでこんな事になったのか意味がわからないけど、とにかく面倒な事態は回避出来たみたいで良かった。
このまましばらく忘れててもらおう。
男は頭を抱えて考え込んだ。
「…思い出せない。凄く大切な事だった気がするのに。どうしてなんだ?」
一時的なショック症状のようなものだろう。
いずれまたコイツを苦しめるチャンスが来るかもしれない。
クロはとりあえずその場を収めようと男へ言った。
「きっと慣れない事をして疲れたのよ。今日はゆっくり休んで?私はまた落ち着いた頃にお見舞いに来るわ。」
「…う、うん。そうなのかな?……そうだね。今日はもう寝るよ。茜ちゃんありがとう。」
男はそう言うと布団へ潜った。




