茜とクロ 第1話
フワフワと漂う黒いモヤ。
「…茜?私にはわかるよ?」
クロの声に反応したのかクスクスと笑う声が響いた。
「ねぇ、茜はお母さんと上へ行ったんじゃなかったの?なんでここに?」
クロは状況がよくわからず話しかけた。
再び茜だと思われるそのモヤに話しかけようとした時。
遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
その音に合わせるようにウメさんが走って部屋へ戻って来るのが見えた。
「…あ、茜!?そこにいるんでしょ?今日の夜、またここへ来て!その時に話そう!」
ウメさんに聞かれないように早口で言った。
聞いているかどうかはわからなかった…。
こっちに向かって走りながらウメさんがクロへ声をかける。
「そんな所で何をやってるんだい?早く見えない所へ行きな!後はこっちでやっとくから。」
ウメさんはそのままの勢いでバタバタと部屋に入り、男へ声をかけた後、到着した救急隊員を呼んだ。
(…ここにいたら邪魔になる。)
クロはひとまず103号室へと戻ってさっきまでいた茜の気配を探ってみた。
「どこ行った?ハッキリ返事しなかったけどアレは茜だよね…?」
さっきまでの気配はなく、どこかへ行ってしまったようだ。
「う…うぅ。俺のせいじゃない。俺じゃない…」
……あ、忘れてた。
「はぁ。まだそんな事言ってんの?お前のせいだって言ってんだろ。」
クロは面倒になったのか雑な口ぶりで103号室の男へ話しかける。
「…違う。俺じゃないんだ。……あ、わかった。わかったぞ!俺の他にも男がいたんだろ!?」
とうとう頭がおかしくなったらしい。
というか、コイツは元々まともじゃなかったんだった。
「何言ってんの?頭イカれた?」
クロが呆れて声をかけると男はガバッと起き上がり、再び覗き穴から隣の部屋を覗き始めた。
「犯人は誰だ!?俺が探して仇を打たないと!…あ、あの男、倒れてる?あははははっ!彼女を傷つけたからバチが当たったんだ!ざまぁみろっ!!」
コイツは何を言ってるんだ?
クロはどうやって説得するか考えたが……諦めた。
もう何を言っても聞かないだろう。
仕方ないのでこの状態でどうなるのかしばらく様子を見る事にした。
201号室の男は無事運ばれて行ったらしい。
…救急車のサイレンが遠のく。
「やっと行ったか。あの男、なんであの人の部屋に入ってたんだ!?……絶対に許さないっ!」
クロは男の様子に呆れていたがこのままにしておけない。
「さ、病院へ帰ろう。」
……反論する隙を与えず男を気絶させた。




