201号室と103号室 第21話
あの日…初めてウメさんに会った日の事だ。
俺はとにかく周りの人間を誰も信用出来なくて、でもそれが悲しくて寂しくてたぶん捨てられた子犬みたいな顔をしていたんだと思う。
「…なんだい、その顔は。初めて会うのに少しは愛想良くしたらいいだろうに。」
低くしゃがれた声で言われて俺は萎縮した。
嫌味を言われたんだとばかり思って咄嗟に謝る。
「…すみません。」
本当に聞こえるか聞こえないか位の小さな声で俺は答えた。
「どうして謝る?…こっちへおいで。」
ウメさんが少し離れた所から手招きした。
俺は少し戸惑ったが言う事を聞かないと何をされるかわからないと思い、大人しく従った。
近づいた俺の手をウメさんは優しく両手で握って包んだ。
その手はとても温かくて俺はこんなにも人の温もりに飢えていたんだと実感した。…涙が自然と溢れてくる。
そんな俺の頬に流れる涙を拭いながら、ウメさんはまっすぐに目を見て話してくれた。
「…辛かったろう?ここにはアンタを苦しめる奴らはいないからね。すぐには無理だろうが安心して生活出来るようにするから。…大丈夫だよ。」
ウメさんの低くしゃがれた声はさっきとは全然感じ方が違った。
本当は最初から優しい声だったはずなのに、俺が受け入れようとしなかったから怖く聞こえたんだ。
その声はとても耳に心地よくて涙が止まらなくなった。
「…お、俺、出ていけって言われて…これからどうしたらいいんだろうって、ずっと考えてたんです。でも俺みたいなガキが一人じゃ普通に生きていくのだって無理で…。」
今まで我慢していた感情が溢れ出て、小さい子供のように泣きじゃくりながら俺はウメさんに話していた。
ウメさんは俺の頭を撫でながらフンッと笑った。
「馬鹿だねぇ。そんなのは大人がきちんとするんだからアンタは甘えておけばいいんだよ。それにしても自分の身の程を知ってるっていうのは大事な事だ。…賢い子だね。」
その後、ウメさんの家へ行って落ち着くまで話を聞いてもらった。
ウメさんは俺の話を静かに最後まで聞いてくれた。
こんな風に誰かにじっくり話を聞いてもらったのは生まれて初めてかもしれない…。
「今日はウチに泊まっていきな。明日アンタの部屋を準備してあげるから。」
そう言ってお風呂や食事、寝床の用意もウメさんがしてくれた。
「あ、あの!手伝います!」
そう言った俺の頭を撫でてウメさんが優しく笑った。
「ここはアンタの実家だ。親に遠慮は要らないんだよ。」




