201号室と103号室 第17話
「夕方って言ってたけど、茜ちゃんが来るのは何時なんだろう…?」
103号室の男は布団に潜りながらソワソワする気持ちを何とか抑える事に必死だった。
今の時刻は14時45分。
夕方というにはまだ早い。
「…はぁ。早く彼女に会いたい。」
その時、フワリとカーテンが揺れたのがわかった。
(また風もないのに…!?もしかしてっ!!)
慌てて布団を剥がし男は飛び起きた。
ベッドの脇にクロが来ていた。
「あ、茜ちゃんっ!早かったねっ!!」
「しーっ。」
クロは静かに微笑みながら唇に人差し指を当てていた。
「あっ!ご、ごめん。」
男は以前来た時にもしたように口に手を当て塞ぐようなしぐさをした。
「待ちきれなかったの?」
クスクス笑いながらクロが小さな声で聞く。
「う、うん。早く…会いたくて。」
「ありがとう。お母さんの事をそんなに好きでいてくれて。」
ニッコリ笑ってクロは男に説明を始めた。
ニッコリ笑う可愛らしい笑顔の裏では、毒づき見下しながらこの男をどうやって地獄に落としてやろうかと考えているのだから不思議な光景だ。
「ここから出るのは、自分の中身だけ。」
「な、中身!?どういう事?」
「幽体離脱って知ってる?…それをするの。」
「幽体離脱!?中身ってそういう事か!」
クロは静かに頷いた。
「病院に誰もいないと変に思われるし、そのままの格好じゃ外へは出られないもん。それにお兄さん、ずっと眠ってたからたくさんは歩けないでしょ?」
「…うん。確かに。茜ちゃんの言う通りだ。」
「大丈夫!私もやった事あるの。お空を飛べてすっごく楽しいよ!」
子供らしく満面の笑みでクロは男が疑わないように話を進めた。
「茜ちゃんもやった事あるの!?すごいね。」
ニコニコ笑いながら(もう死んでるからだよ?)と心の中で言う。
「どうする?やる?やらない?」
最終的にやるかやらないかは本人に決めさせようと思っていた。無理矢理やらせるのは違うと考えていたし、どんな決断でも本人の意思でなければ意味が無いと思ったからだ。
「もちろん!やるよ!やったら彼女に会えるんでしょ?」
「う〜ん。それはわかんない。」
「えっ!?会えるかわかんないの?」
「だって、お母さんがどう思ってるかは私にはわからないから。」
男の顔が曇る。
(渋るか…?大事なモノを諦めるの?)
「いや!そうだよ。気持ち伝えた訳じゃないし。…俺、やるよ!」
「そう!良かった!あ、でも戻ってこれるかはわかんないよ?それでもやる?」
「…え?」




