201号室と103号室 第14話
ウメさんは暗い表情でこちらを見上げた。
「…なんかあったんすか?」
「……まぁね。」
(いや、聞きづれぇ。どう考えても普通のテンションじゃねぇし。)
ここはどう切り出したもんか…としばし考えて、男はド定番の天気の話から入る事にした。
「なんか寒くなってきましたね。もう9月も終わりですもんね。」
「あぁ、そうだね。……アンタも面倒な男だね。聞きたい事があるならスッと聞きな。」
(お見通しかーい!)と心の中でツッコミながら、下手な小細工は通用しない相手だった事を思い出した。
「…すんません。じゃあ、遠慮なく。どうしたんすか?いつもと違って暗いっすよね。」
「そりゃ暗くもなるさ。知り合いが死んで部屋の片付けをするんだからね。」
「えっ。死んだって誰が…?」
「……この部屋の住人さ。」
ウメさんはそう言いながら102号室の扉をトンッと握った拳で叩いた。
「…事故だとさ。警察から連絡が来たのが数ヶ月前の話だよ。大家でも勝手に部屋は片付けられないから、家族からの許可を貰うのに手間取ってこんなに時間が空いちまったのさ。」
「えっ…事故?数ヶ月前?」
ちょっと何を言っているのかすぐには理解出来なかった。
そうか……どうりでウチにいたアイツを迎えに来ないはずだ。
母親がもう死んでたなんてな。
「これから部屋の片付けするんすか?」
「いや、今日はもう遅いから明日だ。」
片付けるのが明日ならちょうど休みだし、手伝わせてもらえないか聞いてみるか…。
もしかしたらアイツの事が何かわかるかもしれない。
アイツ普通じゃなかったからな…。
気絶する前の様子を思い出してブルっと体が震えた。
「あ、あの!その片付けって俺が手伝ったらダメっすかね?」
「なんでアンタが手伝う必要があるんだい?」
「いやっ!そ、それは〜あの〜……あ、男手が必要かなっと思ったんすよ。重い物もあるでしょ?」
ウメさんは怪訝そうな顔をしたが、フゥッとため息をついて「仕方ないね。」と小さく呟いた。
「ありがとうございますっ!明日、何時に来ればいいっすか?」
「午後からかね。3時半頃にでも来ておくれ。」
「わかりました。じゃ、また明日。」
そう言って俺はそのまま階段を上って部屋へと戻った。
「予定が変わったわね。…明日の3時半か。」
クロが静かに二人の会話や様子を伺っていた。
「クロ。そこにいるんだろ?どうするつもりか知らないが明日なんだね?」
ウメさんは何も見えない空中に向かって話しかけた。




