201号室と103号室 第10話
母親がベッドへ入る音を聞きながら、103号室の男は寝たフリをしていた。わざと寝たフリをしている訳ではなく、興奮して眠れないのを誤魔化していたのだ。
今はこの喜びを一人で噛み締めたい…!
実は夕方に思いもよらぬお客が見舞いに来たのだが、それは母親が少し席を外した間の事だった。
……
「こんにちは!お兄ちゃん、私が誰かわかる?」
音もなく静かに目の前に現れた少女は、死んだはずの茜だった。
「えっ!?あ、茜ちゃん!?そんな馬鹿なっ!君はもう死ん……」
「しーっ!」
唇に指を当てられて話を遮られる。
何故だかその仕草が大人びていて胸がドキリと跳ねた。
…なんで俺、こんな小さな子にドキドキしてんだ!?
クスクス小さく笑いながらこちらを見ている茜ちゃんは、彼女にそっくりで可愛らしかった。
「お兄ちゃんはママの事好きなんでしょう?私ぜーんぶ知ってるよ?」
妖しい目をした茜ちゃんは俺の耳元でそう呟いた。
どうしても抑えられない胸の高鳴りに驚きながら、俺は大きく首を縦に何度も振ることしか出来なかった。
「ふふっ。ママに会わせてあげようか…?」
今度は顔を正面から近づけて目の前でニッコリ可愛らしく笑った。…俺は茜ちゃんから目を離せない。
「彼女に…君のお母さんに会えるの?」
俺の様子を伺う為に少し顔を離した茜ちゃんは、静かにこちらを見つめたままで頷いた。
「会いたいっ!今すぐにっ!!」
「だからしーっだってば!」
俺は慌てて両手で口を抑えた。
「…ご、ごめん。」
「ママの事が本当に好きなのね。ありがとうお兄ちゃんっ!」
またニッコリ笑った茜ちゃんが可愛くて抱きしめたい衝動を抑えるのに必死だった。
震える自分の手をギュッと握り、フゥーッと息を吐いた。
(あの人に…彼女に会える!?やった!!)
リハビリや色々な手続きが終わらなければ退院は出来ない。
それがいつになるのかわからなかったから、彼女に会えるとわかっただけでとても興奮している。
「…で、いつ会えるの?」
小さな声で恐る恐る聞いた。
茜ちゃんは今度は怪しくニヤリと笑って言った。
「…明日の夜に。」
「あ、あれ?なんか急に雰囲気が変わった…?」
先程のニッコリした可愛らしい笑顔に戻って何も無かったように茜ちゃんは言った。
「ふふっ。気のせいよ〜!明日の夜、迎えに来るからここで待ってて。誰にもバレないようにね…。」
「誰にもバレないように?どうして…」
「しーっ。」と自分の唇に指を当てて茜ちゃんは笑った。




