201号室と103号室 第9話
息子の事件の事で警察から連絡が来た。
すぐに夫へ連絡を入れたが出ないし、何度メッセージを送っても返事はない。
「どうして…!?こんな時でもこうなの?」
仕方ないので会社へ連絡を入れるしかなかった。
「職場へ連絡するなんて何考えてんだ!?迷惑だろうがっ!!」
久しぶりに夫の声を聞いたがこんな声だっただろうか…?知らない誰かと話をしている気分だった。
「実の息子が事件に巻き込まれたのに知らん顔してる貴方には言われたくないわ。必要な連絡ですから嫌なら貴方がきちんとすればいい話でしょう?」
私は、淡々と答えるしかない。声を聞いたって何の感情も湧かなかった。…怒りも喜びも寂しさでさえも。
「俺は知らんっ!そっちの事は任せてあるんだからお前が何とかしろっ!!二度と会社への連絡はするなよ!」
夫はそう言い放ち、ガチャンッと電話を切った。
「…ホント、死ねばいいのに。あの女と一緒に。」
ツーツー…と電話の切れた音が耳の奥に響く。
聞こえないし言ったところで意味はないとわかっていても、自然と恨み言が口をついて出てしまった。
「……。」
ピッと電話のスイッチを押し、電話を戻す。
「…はぁ。どうしよ。」
その場に座り込み、深いため息と一緒に困惑の声が漏れる。
とりあえず病院へ向かわないと。
でも夜だから今からは無理。
明日の早朝に出発だ。
…重い腰を上げて荷物を詰め始めたが、不意に手の甲にポタリと雫がこぼれ落ちた。
「あ、あれ?おかしいな。なんで涙なんか…」
一度溢れ出してしまったモノを抑える事は出来なかった。私は再び崩れ落ちるように座り込み、声を上げて泣いた。
「どうしてっ!?どうしてこうなったのよ!私が悪いの?もう嫌っ!!」
手に持っていた靴下を床に投げつけた。
こんな風に泣いたところで何かが変わるわけじゃない事はわかっている。でも、もう限界だった。
「あの子の事が落ち着いたら離婚届送り付けてやるっ!絶対に許さないから…!」
涙を拭って立ち上がり、再び荷物を詰め始めた。
(二度と泣くもんか!次は嬉し涙を流してやる!)
こんな姿は誰にも見せられない。これは私だけの秘密だ。
……
ようやく落ち着いたのか、息子の寝息が隣のベッドからカーテン越しに聞こえてきた。
真っ暗な部屋で窓ガラスに映る自分の顔を見つめた。
疲れてやつれた顔…。
実際の年齢よりも老けて見られる事が多くなったのは、苦労が絶えないせいだろうか…?
「もう私も休まないと。まだ先は長そうだわ…。」




