201号室と103号室 第8話
少し時間は戻って……
201号室の男が気絶していたその日の夜の事。
頭を殴られて入院していた103号室の男が長い眠りから目覚めていた。
「…あぁもうっ!何でだよ!?早く彼女に会いたいのに!」
そう言いながら頭を抱えてベッドの上でうなだれた。
医師の診察の結果は問題ないとの事だったが、だからといってすぐに退院とはならない。詳しい検査が必要だったし今まで長く眠ったままだったのだから、かなり筋力が落ちていてリハビリが必要だった。
それを聞いて気持ちばかりが焦る。
「彼女はどうしているだろう?まさか三ヶ月も眠り続けていたなんて…!あぁ、早く彼女に会いたい!」
103号室の男は茜の母がすでに亡くなっている事を知らない。三ヶ月もの間眠っていた事でこの男にとっては、この先を生きてくのが地獄のような現実が待っていた。
「焦っても仕方ないでしょう?しっかりリハビリ頑張らないとね。」
母親は、目が覚めたとの連絡をもらって病院へ駆けつけていた。
落ち着くようなだめながらも、さっきから息子が話している彼女というのが誰なのか気になっていた。たぶん覗いていたという隣の部屋の女性の事なのだろう。確認したかったが怖くて聞く事は出来なかった。
母親は、息子が無事に目が覚めてホッとすると同時にあの日の出来事を思い出していた。
警察官の高木と見たあの少女…。
パトカーのフロントガラスにベッタリとくっついて車内を覗き込んでいた。
真っ黒な穴になった二つの目とニタリと笑う口。
ガリガリに痩せた腕や足が痛々しかったのを鮮明に覚えている。
もしかしたら、ウチの子が何か関わっているかもしれない…。確信はなかったが、たぶんそうなのだろうと思った。
退院出来たらすぐにでも大学を辞めさせて家へ連れて帰ろうと考えている。本人が納得するとは思えないが、ほとんど大学へは通っておらず隣の女性を覗いていたらしいから、きっと留年するのだろう。
「何のためにわざわざ都会へ出したんだか…。」
息子に聞こえないように小さくため息をついた。
父親である夫は、単身赴任中で地方へ行ったままだ。忙しくてほとんど帰っては来ず、こちらの事は私に任せっきりだった。
今回だって息子が事件に巻き込まれたと伝えたのに知らん顔だった。もう随分前から夫婦仲は冷めきっていて、きっと向こうに女がいるのだろうという事もわかっていた。
「もう嫌。どうしたらいいの…?」
事件が起きて私は一人で頭を抱えるしかなかった。




