201号室と103号室 第1話
高木からだ。
…あの男、やっと起きたか。
いよいよ動き出す。
始まったらきっと終わりまで誰にも止められないだろう。
…そう、私でさえも。
「…ありがとう。もういいよ。」
ボソッと低い声で高木へ伝える。
「…わ、わかった。これだけで本当に伝わるんだな。」
戸惑う高木の声が聞こえたが、特に反応はせずクロは201号室の男へと向き直った。
その時、テレビから流れてきたニュースがこの男の運命を決めた。
流れていたのは、楓が医療少年院で死んだ事と茜の父親が刑務所で死んだ事を知らせるニュースだった。
「なんか変な事件が続いてんだな…。ま、俺には関係ないわ。」
しっかし、あの中学生にはビビったけどな。
まさか、親と友達まで殺してたなんてな。わかんねーもんだわ。
そう言いながらアイツで憂さ晴らしする俺も俺だな。
男の心の声がクロの頭へ響いて聞こえた。
やっぱりこの男には反省などというものはないらしい。まぁ、記憶を消されているから仕方ない事なのかもしれないが。
(さぁ、どうなるか…。)
様子を見ようと構えたが、次の一言でクロのスイッチが入ってしまった。
「ははっ。お前の母ちゃん、よっぽどお前がいらないんだな。帰って来やしねぇじゃんか。たぶんお前捨てられちまったんだなぁ。」
いつも通り何の反応もない…。
反応しないのではなくて出来ないのだ。
凄まじい怒りで全身が震える。
男はクロの様子を見てもすぐには気づかず、呑気にこちらを見ている。
クロは下を向いたまま動かない。
目の前が真っ赤に染まる。
今までにない怒りを感じた。
(…あぁ。もう駄目だ。)
「なんだよ。面白くねぇな…またいじめてやるか。」と呟きながら振り向くと、物凄い形相で睨むアイツが立っていた。
「な、なんだよ。本当の事じゃねえか。お前の母ちゃん迎えに来ないだろうが!嫌われてんだよ!」
…何だか様子がおかしい。背筋がゾワゾワする。
次の瞬間!
真っ黒な腕が伸びてきて俺の首を絞めた。
「うっ、や、やめろ…。」
ヤバい!息が出来ない…。
物凄い力で体が持ち上げられる。
このままじゃ死んじまう。
足をバタバタとさせ、必死にもがくが力はどんどん強くなる。
目の前が暗くなってきて俺は意識を失った。
「…お前に何がわかる?人を殴る事しか出来ないお前に。」
地を這うような低い声が響いた。
男は力なくダランと手足をブラつかせて、真っ黒い腕の中で揺れていた。
ドサッ…
布団に落とされた後も壊れた人形の様に力なく横たわるだけだった。




